原則、輸入申告名義人のみ輸入消費税の仕入税額控除をすることができる

保税地域から引き取られる外国貨物に係る消費税(以下、輸入消費税)の納税義務者は、当該貨物を保税地域から引き取る者であり、基本的には、関税法上の「輸入者」と一致します。

関税法上の輸入者とは、納税義務者である「輸入申告名義人」とされています(関税法第6条、関税法第7条1項関税法基本通達7-1)。この輸入申告名義人は、課税貨物の申告納税義務者であることから、同名義人である事業者は、消費税法上、課税貨物に係る消費税について仕入税額控除の対象とすることができるとされています(消費税法第30条1項3号及び4号)

なお、2023年10月1日の関税法基本通達改正により、「輸入者」の定義および要件が厳格化されました。これにより、売買取引における買手や貨物の処分権を有する者等、取引に実質的に関与する主体のみが輸入者として認められ、取引に関与しない第三者が名義を貸し借りすることは認められていません。

日本国内に事務所等を有しない外国法人(非居住者)であっても、当社の税関事務管理人(ACP)サービスを活用することで、非居住者自身が適正な「輸入者・輸入申告名義人」となることが可能です。これにより、輸入消費税の仕入税額控除、および状況に応じた還付を受ける権利を確保できます。当社では、このスキームを通じて適正な還付を実現させた実績を多数有しております。

実質的な輸入者と輸入申告名義人が異なる場合

東京地裁平成20年2月20日判決において、「原則として、課税事業者が自ら輸入段階で納付した税額を控除する仕組みであることを念頭に置いたものと解すべきである。特段の事情が無い限り、輸入消費税の申告名義人でない原告が課税事業者として納付すべき消費税において控除されることはないと解すべきである。」とし、納税義務者が第三者名義で納税申告することは法が予定していないことが示されています。

つまり、実務上の原則として「輸入申告名義人(輸入者)のみが、輸入消費税の仕入税額控除を受ける権利を有する」ということが改めて裏付けられています。したがって、適正な還付を受けるためには、単に税金を負担するだけでなく、適切な名義で輸入申告を行うことがコンプライアンス上極めて重要となります。

実務上は、まずもって輸入申告名義人でない者が輸入消費税の仕入税額控除が認められることは無いと考えるべきでしょう。

特段の事情を以て輸入申告名義人でない者の仕入税額控除を認め得る特例として存在するのは、消費税法基本通達11-1-6「実質的な輸入者と輸入申告名義人が異なる場合の取扱い」が挙げられます。

同通達は、輸入申告名義人が関税の割当制度又は関税の軽減又は免除を受けるため一定の資格者が輸入申告をしなければならない場合(これに該当する場合を「限定申告」という。)においては、実質的な輸入者と輸入申告名義人が異なる場合でも、次の要件のいずれにも該当すれば、実質的な輸入者がその課税貨物について納付した消費税を仕入税額控除の対象とすることが認められているものです。

(1)実質的な輸入者が、輸入申告後にその課税貨物を輸入申告名義人 (製造者等)に有償で譲渡するものである。
(2)実質的な輸入者が、その課税貨物の引取 りに係る消費税額等を負担するものである。
(3)実質的な輸入者が、輸入申告者名義の輸入許可書及び同名義の引取りに係る消費税等の領収証書の原本を保存するものである。

2023年10月1日関税法基本通達の改正「輸入者」の厳格化

2023年10月1日の関税法基本通達改正により、「輸入者(輸入申告名義人)」となれる者の定義が厳格化されました。現在、適正な輸入者として認められるのは、具体的に以下のいずれかに該当する者に限定されています(関税法基本通達67-3-3の2)

(1) 輸入取引(海外の売手と日本の買手との売買取引により輸入されるもので日本の買手が輸入者になるもの)により輸入される貨物については、関税法基本通達6-1(1)に規定する「貨物を輸入する者」と同様とする。

(2) 上記(1)以外の場合には、輸入申告の時点において、国内引取り後の輸入貨物の処分の権限を有する者をいい、その者以外に輸入の目的たる行為を行う者がある場合にはその者を含むものとする。

実務上の解釈と当社の見解: この改正により、日本国内に事務所等を有しない外国法人(非居住者)が日本へ貨物を持ち込む際、以下の形態は引き続き正当な輸入者として認められます。
・日本の顧客との売買取引に基づき、日本の買手側が輸入者となる形態
・貨物の処分権限を有する非居住者自らが(税関事務管理人:ACPを選任して)輸入者となる形態

一方で、処分権限を有さず、かつ取引に実質的に関与しない第三者を単なる「名義貸し」として輸入者(輸入申告名義人)に据えることは、明確に否定されています。

貨物の処分権限を有する非居住者自らが(税関事務管理人:ACPを選任して)輸入者となる形態

当社サービスによるソリューション: 日本国内に事務所を持たない非居住者の皆様でも、当社の税関事務管理人(ACP)サービスを活用することで、非居住者自身が法令に準拠した「輸入者・輸入申告名義人」となることが可能です。
これにより、輸入消費税の仕入税額控除、および還付を受ける権利を適正に確保できます。当社では、この法令に則ったスキームを通じて、多数の仕入税額控除(および還付)を実現させてきた確かな実績がございます。

*本改正において、「処分権限を有する者」が輸入者の意義として明確に位置付けられた点は、特筆すべき変更といえます。ここでいう「処分権限」とは、関税関係法令に明文の定義規定はないものの、税関への確認によれば、「貨物を国内に引き取った後に当該貨物をいかに取り扱うかを決定する権限であり、例えば、当該貨物を販売するか否か、または売買契約に合意するか否かを決定する権限等」を意味します。

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本研究を通じて得られた知見を広く共有することで、国際貿易の健全な発展、ならびにならびに適正な輸入・税務実務の普及に寄与することを目指しております。

本論文は2027年3月の完成を予定しており、現在は作成途上の段階です。実務や法改正の動向に合わせ、研究経過を随時アップデートしてまいります。

「輸入消費税の仕入税額控除が認められる『事業者』の範囲に関する一考察」

国外事業者による有形資産の国内販売に伴う形式的な輸入申告名義人の取扱いをめぐって

目次

序論

第1節       研究の契機となった事例の概要

第2節       問題の所在の整理

1.    国外事業者による納税義務

2.    税負担の公平性と国際的競争中立性の問題

3.    輸入消費税の仕入税額控除を認めるべき「事業者」とは

第3節       研究の目的

第4節       本研究の射程の限定(関税法との関係)

第5節       本稿の構成

第1章       関連規定の整理

第1節       課税貨物に係る消費税(輸入消費税)の法令規定

1.    仕向地主義

2.    課税の対象

3.    納税義務者

4.    申告義務者

第2節       引取りに係る税額の控除

1.    仕入税額控除制度と国際的競争中立性の確保

2.    課税貨物に係る消費税額の控除

3.    帳簿及び書類の保存要件

4.    消費税法基本通達11-1-6⦅実質的な輸入者と輸入申告名義人が異なる場合の取扱い⦆   

第3節       関税法の規定

1.    貨物を輸入しようとする者(輸入者)と消法30条1項の「事業者」との関係

2.    輸入者の意義

第4節       小括

第2章 我が国の裁判例の分析

第1節       東京地裁平成20年2月20日判決

1.    事案の概要

2.    争点と当事者の主張

3.    判決の要旨

第2節       判決を踏まえた議論の整理

1.    仕入税額控除の趣旨からみた原則的解釈

2.    納税申告の形成的効力と輸入消費税に係る仕入税額控除の要件

3.    消法13条(資産の譲渡等を行った者の実質判定)との関係

4.    輸入申告名義人でない実質的に課税貨物を「引き取る者」に仕入税額控除を認め得る「やむを得ない事情」とは

第3節       小括

第3章 EU付加価値税制度と判例分析

第1節       EUの付加価値税制度

1.    制度概要

2.    EUの法体系

3.    輸入付加価値税及びその控除に関するVAT指令等の詳細規定

4.    VAT委員会及びガイドラインによる解釈

第2節       輸入付加価値税控除否認事案― C-621/19 - Weindel Logistik Service判決(欧州連合司法裁判所・2020年10月8日)―

1.    欧州司法裁判所の位置づけ

2.    事案の概要

3.    争点

4.    争点に関する原告及び被告の主張

5.    判決の要旨

第3節       判決を踏まえた議論の整理

1.    判決の意義

2.    所有者としての処分権をめぐる議論

3.    輸出免税取引に対応する仕入れに課される前段階税の控除

第4節       小括

第4章 輸入消費税の仕入税額控除を認めるべき事業者の考察

第1節       形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキーム事例を通じた検討

1.    形式的輸入名義人の性質

2.    形式的輸入名義人の国外事業者への役務提供の輸出免税の適否

3.    平成20年東京地裁判決を踏まえた検討

4.    EU判例を踏まえた検討

5.    「引き取る者」とは誰か - 所有権の移転時期との関係

6.    検討結果

7.    EU判例要件の妥当性に関する批判的検証

第2節       輸入消費税の仕入税額控除を認めるべき事業者の線引き

第3節       税務行政・納税者など関係者の運用面に与える影響

第4節       小括

第5章 提言と結論

第1節       提言

第2節       結論

 

序論

第1節         研究の契機となった事例の概要

筆者は、数多くの国内に事務所等を有しない国外事業者[1]に対して、税関手続の代理人である「税関事務管理人」として、輸入支援サービスを提供している。

近年、越境ECの普及により、手軽にクロスボーダー取引を行える環境が整備されたことで、輸入を取り巻く事業者とその事業者が行う取引形態が大きく変化している。特にAmazonのフルフィルメントサービス(Fulfillment by Amazon(通称、FBA))を活用すれば、国外事業者の出品者は、仲介会社を介在させることなく、自ら所有権を保持したまま日本国内に商品を輸入し、Amazon倉庫に保管したうえで、国内の消費者に直接販売することが可能となった。

FBAとは、出品者に代わって、商品のAmazon倉庫での保管、Amazonサイト上での販売、顧客からの注文処理、倉庫からの発送、さらには顧客対応までを一括してAmazonが代行するサービスである。ただし、顧客への販売が決定するまで、一貫して出品者側が商品の所有権を有する。

このような仕組みの普及により、越境ECを通じた通販貨物の輸入量は増加傾向にある[2]。実務に携わる筆者の視点からも、従来は比較的規模の大きな企業が中心であった貿易業界に、より小規模かつ多数の事業者が参入するようになり、輸入に関与するプレーヤーの裾野は拡大しつつあると考えられる。

参考1 国外事業者による Amazon FBA スキームを通じた輸入・販売モデル

外国貨物を保税地域から引き取るためには、原則として、税関長に対して輸入申告を行うと同時に、課税貨物に係る消費税及び地方消費税(以下、「輸入消費税」という。)の申告と納税を済ませることにより輸入の許可を受けることができ、外国貨物を引き取ることができる[3]。国外事業者が自ら課税貨物を保税地域から引き取ろうとする者、すなわち税関長に輸入申告及び輸入消費税の申告を行う者(以下、「輸入申告名義人」という。)となるためには、日本国内において、税関手続及び保税地域からの引取りに係る消費税等に関する事項の処理を行う代理人として、税関事務管理人兼消費税等納税管理人(以下、「税関事務管理人等」)を定めなければならない[4]

また、国外事業者であっても、国内において資産の譲渡等を行った場合には当然に消費税の課税対象となるから、消費税の免税事業者でない限り、国外事業者は、納税管理人を定めて消費税の申告・納付を行わなければならない[5]

この際、消費税法基本通達(以下、「消基通」という。)11―1-6⦅実質的な輸入者と輸入申告名義人が異なる場合の取扱い⦆の適用を受ける場合を除き、原則として輸入申告名義人のみが輸入消費税の仕入税額控除が行える者とされているため、その国外事業者が納付した輸入消費税を仕入税額控除の対象とするめには、税関事務管理人等を定め、自らの名義により輸入申告及び輸入消費税の申告を行うことを要する[6]

参考2 国外事業者が自ら輸入申告名義人となり、自ら消費税の申告・納付を行う

しかしながら、特に小規模な国外事業者は、税関手続きにおける税関事務管理人等の利用を敬遠する傾向にある。

税関事務管理人等を通じて国外事業者が引き取ろうとする場合、税関事務管理人等に係る税関への届出や、通関時の書類審査等により通関に時間を要する。国外事業者に対して輸入後の事後調査を実施することは容易ではないため、実際の輸入時には、一般の国内事業者による輸入よりも厳格な審査が行われる。

その結果、国外事業者は、日本国内の他の事業者、例えば物流・倉庫会社や輸入名義貸し会社等を形式的な輸入申告名義人として仕立て、一旦これらの者の倉庫に引き取らせてから、Amazon倉庫に納品させるというケースが多いようである。このように一旦、輸入申告名義人に引き取らせるのは、関税法上、一般的な輸入者が荷受人とされていることによるものである[7]

輸入名義貸し業者等は、輸入申告名義人となって輸入消費税を納付し、その後、還付申告を行って当該税額の還付を受ける。このスキーム(以下、「形式的な輸入申告名義人を介した輸入消費税還付スキーム」という。)を利用することで、輸入消費税の納付から還付までを輸入申告名義人(以下、同スキームにおける輸入申告名義人を「形式的輸入名義人[8]」という。)に任せることができ、国外事業者は引取り時の輸入消費税の支払いが不要となる。

参考3 形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキーム

第2節         問題の所在の整理

1.    国外事業者による納税義務

国外事業者が消費税申告をするならば、第三者を形式的輸入名義人にしたところで、その国外事業者は輸入申告名義人となっていないのであるから、消費税申告時に輸入消費税の仕入税額控除は適用できず、国としては税収上の損失は生じないと言える。したがって、この事例は、国外事業者に申告納付をさせられれば問題は生じない。

しかし、E-Commerce(EC)事業者は小規模で免税事業者要件に該当する国外事業者も多く、そのような事業者からの消費税申告は期待できない。

  • インボイス制度導入の影響

令和5年10月からの適格請求書等保存方式(インボイス制度)導入により、国外事業者でもインボイス発行事業者となることも少なくない。Amazonなどのプラットフォーム事業者もインボイス発行事業者の登録を推奨しているようだが、あくまでその判断は出品者に委ねられている。ECを通じて一般消費者向けの販売を行う国外事業者にとっては、適格請求書を発行してほしいとの顧客からの要請もなく、インボイス発行事業者となるインセンティブは限定的と言える。

  • 外国法人の資本金による納税義務判定基準の厳格化の影響

令和6年4月の消費税法等改正「外国法人が国内において事業を開始した場合の納税義務の免除の特例の見直し」により、外国法人の資本金による納税義務判定基準が厳格化された。資本金額が1000万円以上である法人は、基本的には日本での事業開始の最初の事業年度から「基準期間がないものとみなし」、納税義務が免除されないこととなった。

この税制改正により、一定程度、消費税の申告納付を開始する国外事業者が増えてきていることは間違いないが、問題事例にあげるような会社は小規模事業者も多く、当該改正による効果も限定的と言わざるを得ない。

  • 物品販売に係るプラットフォーム課税の導入(方針段階)

本論文の執筆開始後に公表された我が国政府与党の令和8年度税制改正大綱によれば、現行の電気通信利用役務の提供に係るプラットフォーム課税について、これを物品販売へも拡充する「物品販売に係るプラットフォーム課税」制度を新たに導入する方針が示された[9]。本制度が導入されれば、アマゾン等の売上規模の大きいプラットフォーム事業者に対し、国外事業者が国内において行う資産の譲渡等に係る消費税の納税義務が課されることとなり、その適用範囲においては税収上の損失は生じないこととなる。

また、同大綱によれば、プラットフォーム事業者は、国外事業者が行った課税貨物の保税地域からの引取りのうち、プラットフォーム課税の適用を受ける資産の譲渡にのみ要するものについて、あらかじめ当該国外事業者の承諾を得た上で、当該プラットフォーム事業者が行ったものとみなされ、仕入税額控除の適用を受けることができるとされている。この点からすれば、国外事業者以外の者、すなわち形式的輸入名義人が引き取った課税貨物については、仕入税額控除の適用が認められなくなる可能性が高く、その意味においても、形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキームの適用は困難となることが想定される。

もっとも、同大綱はあくまで方針を示す段階のものであり、現時点において税法改正関連法案が成立しているわけではない。また、本制度はアマゾン等の大規模なプラットフォームに限定して適用されることが予定されているため、その実効性には一定の限界があるとも考えられる。実際に、多くの国外事業者は、アマゾン等のプラットフォームに対して少なからぬ手数料を支払っていることから、この費用負担を軽減すべく、日本における売上規模が一定程度に達した段階で、自社のオンラインウェブサイトを通じて直接販売するケースも少なくない。この場合、アマゾンのフルフィルメントサービスを利用する代わりに、日本国内のサードパーティ倉庫会社に商品を保管させ、顧客から注文を受け次第、当該倉庫から発送するという取引形態が採用されている。このような取引形態においては、前述した形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキームを、実質的に同様の構造の下で実施することが可能となる点に留意を要する。

2.    税負担の公平性と国際的競争中立性の問題

消費税は、仕向地原則に基づき、日本へ貨物を引き取る場合、その貨物の最終消費が日本国内で行われることを前提に、外国貨物を保税地域から引き取る者に対して「引取時課税が行われ、消費税の課税漏れなどの問題は生じないとされている」[10]。また、外国貨物に輸入消費税を課すのは、「国内で製造・販売される物品との間の競争条件を等しくするためである」[11]とされている。

しかし、前述の「形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキーム」では、形式的輸入名義人に対して引取時課税が行われても、その後仕入税額控除を通じて還付がなされる。その一方で、国外事業者は仕入に係る消費税を何ら支払っていないため、価格の一部として消費税が組み込まれていないことになる。

以下では、①国内事業者が自ら輸入販売を行う場合、②国外事業者が形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキームを利用して輸入販売を行う場合を比較し、税負担の差異とその公平性について検討する。

  • 国内事業者による輸入販売のケース

申告納付する場合

区分本体価格消費税控除額納付額
輸入時1,000円100円(支払)-100円
販売時2,000円200円(受取)100円100円

免税事業者で申告納付しない場合

区分本体価格消費税控除額納付額
輸入時1,000円100円(支払)--
販売時2,000円200円(受取)--
販売できた場合:100円の益税が発生。販売できなかった場合:輸入消費税100円を国内事業者が負担。
  • 国外事業者による形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキームによる輸入販売のケース

申告納付する場合

区分本体価格消費税控除額納付額
輸入時1,000円(輸入名義人が処理、国外事業者による支払い無し)
販売時2,000円200円(受取)0円 (控除不可)200円  

免税事業者で申告納付しない場合

区分本体価格消費税控除額納付額
輸入時1,000円(輸入名義人が処理、国外事業者による支払い無し)
販売時2,000円200円(受取)  
販売できた場合:200円の益税が発生。販売できなかった場合:輸入消費税の負担は国外事業者に生じない。

いずれのケースにおいても、申告納付を行う場合には、国内事業者・国外事業者のいずれも、同額の消費税を国に納付することとなり、税負担の差異は生じない。しかし、最終的な税負担額そのものに差異は生じないとしても、形式的輸入名義人を利用し、輸入消費税の納付から還付手続きまでのハンドリングを委ねることで、国外事業者は輸入消費税の納付を要せず、事後的な税務署への納付のみで足りることとなるから、国外事業者は国内事業者に比してキャッシュフロー上の優位性を享受し得ることとなる。

次に、免税事業者として申告納付を行わない場合を比較すると、国内事業者が輸入販売を行う場合、輸入時に支払った消費税を控除できない一方で、販売により受け取った消費税が手元に残るため、その差額(上記のケースでは100円)が手許に残ることになる。これに対し、国外事業者が形式的輸入名義人を介したスキームを通じて輸入販売を行う場合、国外事業者自身は輸入時に消費税を負担していないため、販売により受け取った消費税全額(上記のケースでは200円)が手許に残ることになる。

さらに、販売に至らなかった場合、国内事業者は輸入時に支払った消費税分(100円)を負担するのに対し、国外事業者は輸入消費税の負担は生じない。

このように、同じ免税事業者であっても、国外事業者と国内事業者とを比較すると、税負担の公平性を欠く状況が生じているといえる。

このような状況の下では、外国貨物と国内生産品が同じ競争条件の下で取引されているとはいえず、本来、付加価値税制度が目指す国際的競争中立性が確保できていないことになる。

形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキームによって税負担を回避した国外事業者の安価な外国製品が市場に流入することにより、公平な競争環境が阻害されるのではないかと懸念している。

なお、理論上は、免税事業者である国内事業者であっても、第三者である形式的輸入名義人を利用し、その者に輸入消費税の納付から還付までの一連の手続きを委ねることで、同様の租税回避的スキームを構築することは可能である。したがって、この問題は必ずしも国外事業者と国内事業者間での公平性の問題とは言えず、厳密にいえば、形式的輸入名義人を利用した租税回避的スキームを用いる事業者と、そうした手法を用いない事業者との間に生ずる税負担の公平性の問題ということになる。もっとも、筆者は、国外事業者が形式的輸入名義人を利用した租税回避的な行為を行っている実態は把握しているものの、国内事業者が同様の行為を行っているかについては把握していない。本論文は、あくまで、副題「国外事業者による有形資産の国内販売に伴う形式的な輸入申告名義人の取扱いをめぐって」が示すとおり、主として、国外事業者を取り巻く事例を手掛かりに検討を進めるものとする。

3.    輸入消費税の仕入税額控除を認めるべき「事業者」とは

形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキームは、形式的輸入名義人が納付した輸入消費税を仕入税額控除により還付を受けることにより成立するスキームである。

輸入消費税に係る仕入税額控除の根拠規定は、仕入れに係る消費税額の控除を規定する消費税法(以下、「消法」という。)30条にある。同条1項は、事業者が、保税地域から引き取る課税貨物については、課税標準額に対する消費税額から、課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額の合計額を控除できる旨を規定している。

また、同条7項本文は、事業者が、当該課税期間の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、同条1項の仕入税額控除を適用しないことを明記し、さらに同条9項5号は、同条7項に規定する請求書等として、「課税貨物を保税地域から引き取る事業者が税関長から交付を受ける当該課税貨物の輸入の許可があったことを証する書類(輸入許可書)」を挙げている。

形式的輸入名義人は、輸入許可書等の保存要件は当然に充足するよう取り組むであろう。一見すると、形式的輸入名義人も「事業者」として仕入税額控除の対象となり得るようにみえる。

しかし、有識者である溝口は、「課税貨物の売買に全く関与しない通関事務業者や倉庫業者が、単に課税事業を営んでいる事業者であるからといって、輸入名義人となり納付した輸入消費税を控除できるのかという問題が生じる[12]」と指摘している。このように、課税貨物に係る消費税について、輸入申告名義人が事業者であることのみで消法30条1項の「事業者」として仕入税額控除を認めるべきかについて疑問が呈されている状況にあり、掘り下げて検討する意義があると考えられる。

第3節         研究の目的

本研究の目的は、これまで十分に論じられてこなかった「輸入消費税の仕入税額控除を認めるべき事業者」の範囲を検討することにある。

「事業者」の実体的要件に係る解釈については、我が国の裁判例、特に平成20年東京地裁判決において示されており、参考となる。また、国外に目を向ければ、欧州司法裁判所では、一定の輸入名義人に、輸入付加価値税の前段階税額控除を認めないとした判例も存在する。

これら国内外の法制度及び裁判例、さらにそれらを取り巻く学説や先行研究等を参照しつつ、本研究では、筆者が本研究に着手する契機となった、国外事業者による「形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキーム」を用いた租税回避的行為の事例をケース・スタディとして取り上げ、輸入消費税の税額控除を認めるべき「事業者」について、その線引きを検討する。その上で、その線引きを前提とした場合に、税務実務においてどのような制度的対応が考えられるかについても考察を加えることとする。

第4節         本研究の射程の限定(関税法との関係)

本論文は、あくまで消費税法上の仕入税額控除を認めるべき「事業者」の範囲を検討することを目的とするものである。そのため、関税法上の「貨物を輸入しようとする者(輸入者)」の意義や、真の輸入者を輸入申告名義人とするよう対処すべきといった税関行政上の課題を深掘りするものではない。

また、消費税法上の仕入税額控除を認めるべき「事業者」と関税法上の「貨物を輸入しようとする者(輸入者)」の範囲が必ずしも一致する必要はないという前提に立って論述を進める。つまり、輸入許可書が交付された輸入者であったとしても、必ずしもその者が、消費税法上の仕入税額控除を認めるべき「事業者」に該当するとは限らない、という立場に基づくものである。実際に、後述する欧州の判例においても、「輸入者」としての地位は認められながらも、付加価値税の控除権が否定された事例が存在する。このことは、輸入者=税額控除ができる者という単純な図式ではとらえきれないことを示唆している。

第5節         本稿の構成

序論では、本研究に着手する契機となった事例として、越境ECフルフィルメントサービス等を利用する国外事業者による販売事業モデルにおける、形式的な輸入申告名義人を介した輸入消費税還付スキームの概要を整理した。その上で、当該スキームがもたらし得る消費税法上の問題点、特に税負担の公平性や国際的競争中立性の観点からの課題を明らかにした。そのうえで、消費税法30条1項が規定する輸入消費税の仕入税額控除を認めるべき「事業者」の範囲が必ずしも明確でない点に着目し、同規定の解釈を中心に検討する必要性を示し、これを本研究の主たる目的として位置付けた。

第1章では、輸入消費税の仕入税額控除に関する法解釈を検討する前提として、消費税法の関連規定と制度趣旨を整理する。具体的には、仕向地主義の考え方、輸入消費税の課税構造、申告・納税義務者の位置付け、仕入税額控除制度及び同制度が国際的競争中立性の確保に果たす役割を確認する。また、関税法上の「輸入者」の意義や、消費税法30条1項の「事業者」との関係についても概観し、両者が必ずしも一致しない可能性があることを示すことで、以後の検討の基礎を明らかにする。

 第2章では、消費税法30条1項に基づく輸入消費税の仕入税額控除の主体をめぐる法解釈について、我が国の裁判例および関連学説・先行研究を通じて整理する。具体的には、実質的に輸入消費税を負担した輸入申告名義人でない者に、課税貨物に係る消費税の仕入税額控除が認められるか否かが争われた裁判例である東京地裁平成20年2月20日判決を取り上げる。同判決が、原則として輸入申告名義人を控除主体としつつも、制度趣旨との関係で一定の柔軟な解釈の余地を示唆している点を確認する。さらに、輸入消費税の申告行為自体の形成的効力や、消費税法13条に基づく実質判定との関係にも触れ、輸入申告名義人でない者に仕入税額控除を認め得る可能性と、その限界について整理する。

第3章では、日本の消費税制度と共通の基盤を有するEUの付加価値税制度に着目し、輸入に係る付加価値税およびその税額控除に関する制度概要と関連判例を検討する。特に、EU判例において重視されてきた「直接的かつ即時の関連性」という要件や、近時の判例およびVAT委員会ガイドラインにおいて明確化されつつある「所有者としての処分権」の要件に注目する。Weindel判決等を通じて、輸入付加価値税の控除主体に求められる実体的要件がどのように具体化されているかを整理し、日本法との比較検討に資する示唆を提示する。

第4章では、これまでに整理した日本の法令構造、裁判例、EUにおける制度および判例の分析結果を踏まえ、消費税法30条1項において輸入消費税の仕入税額控除を認めるべき事業者の範囲について総合的に検討する。「形式的輸入申告名義人を介した輸入消費税還付スキーム」をケース・スタディとして取り上げ、いかなる事業者に仕入税額控除を認めることが法解釈上相当であるのかを考察する。その上で、一定の線引きを試み、税務実務および制度運用に与える影響についても検討を加える。

第1章  関連規定の整理

第1節   課税貨物に係る消費税(輸入消費税)の法令規定

1.   仕向地主義

仕向地主義(destination principle)又は仕向地基準とは、国際課税上の課税権分配のひとつの考え方であり、国境を超える取引において、資産や役務が送り出された目的地のある国又は地域が課税権を有するという基準である[13]。この原則は、日本の消費税制度にも採用されている。クロスボーダー取引のうち、資産の譲渡(物品の供給)については、仕向地主義に基づき、輸出される物品に対しては消費税を免除する一方で、輸入品(外国貨物)については、国内で製造・販売される物品と全く同様に消費税を課す仕組みとなっている[14]

2.    課税の対象

「保税地域から引き取られる外国貨物には消費税を課する」(消法4条2項)と規定されている。外国貨物とは、輸出の許可を受けた貨物及び外国から本邦に到着した貨物で輸入が許可される前のものをいう(関税法2条1項3号)。

外国貨物が課税の対象とされているのは、それがわが国の国内で消費されるため、国内で製造・販売される物品との間の競争条件を等しくするためである[15]。また、外国貨物への課税については、「対価を得て行われる」ことは要件とされていないため、無償の引取りも課税の対象となる[16]

3.    納税義務者

外国貨物を保税地域から引き取る者は、課税貨物につき、この法律により、消費税を納める義務がある(消法5条2項)。保税地域から引き取られる外国貨物のうち、消費税を課さないこととされるもの以外のものを、課税貨物という(消法2条1項11号)。

4.    申告義務者

課税貨物を保税地域から引き取ろうとする者は、当該引取りに係る課税貨物の品名、数量、課税標準額、税率及び課税標準額に対する消費税額等を記載した申告書を税関長に提出しなければならない(消法47条1項)。

 したがって、外国貨物を保税地域から引き取る者は、納税義務者であると同時に申告義務者でもある。このような者を、以下「申告納税義務者」という。

第2節         引取りに係る税額の控除

1.    仕入税額控除制度と国際的競争中立性の確保

日本の消費税は、昭和63年(1988年)の12月に、抜本的税制改革の一環として施行され、平成元年(1989年)4月から適用された[17]。消費税の種類としては、付加価値税の性質をもつ多段階一般消費税である。すなわち、「消費税」は、原則としてすべての物品とサービスの消費に「広く薄く」課税することを目的とするもので、①国内において事業者が行う資産の譲渡等(国内取引)、及び、②保税地域から引き取られる外国貨物(輸入取引)に対して課税されるが、EU型付加価値税の場合と同様に、税額算定の仕組みとしては、仕入税額控除法が採用されている[18]

この仕入税額控除法(いわゆる「前段階税額控除法」は、課税期間内の総売上金額に税率を適用して得られた税額から、同一課税期間内の仕入に含まれていた前段階の税額を控除することにより、納付すべき税額を算出する方法である。

仕入税額控除法のもとでは、取引段階ごとの税負担の累積が排除され、物品の仕入価額に含まれている税負担の金額を正確に算定することができる。また、輸出取引に際しては「国境税調整(border tax adjustment, 物品の輸出にあたり、その仕入価額に含まれていた付加価値税相当額を還付すること)を比較的正確に行うことができ、その結果、物品はいわば税抜きで輸出されるから、輸出先国でその国の消費税を課されることを前提とすると、当該物品はその国の物品と同じ条件で競争することができる[19]。このように、仕入税額控除型の付加価値税は、国際的な競争中立性を確保しうるという点で、今日のような国際化の時代に適合した合理的な税制であるといえる。

2.    課税貨物に係る消費税額の控除

事業者が、保税地域から引き取る課税貨物については、課税標準額に対する消費税額から、課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額の合計額を控除できる(消法30条1項)。

なお、税額控除の対象とする時期は、一般申告課税貨物については課税貨物を引き取った日の属する課税期間、関税法7条の2(特例申告)の規定による特例申告に係る課税貨物については特例申告書を提出した日又はその申告に対する決定の通知を受けた日の属する課税期間において行う(消法30条1項3号、4号)。

本論文では、消法30条1項の「事業者」を中心的な検討対象とするが、一般的かつ自然な解釈としては、消法30条の「事業者」とは、消法2条にいう納税義務者たる「引き取る者」及び、同法47条にいう申告義務者たる「引き取ろうとする者」、すなわち輸入申告名義人であると捉えられており、実務上においても、当該輸入申告名義人が課税貨物の引取りに係る消費税について仕入税額控除の対象となるものとして取り扱われている[20]

 なお、消法30条1項にいう「事業者」に該当する者を明確に定義した法令や通達は存在していないが、一般的な「事業者」の定義としては、消法2条1項4号において「事業者とは、個人事業者及び法人をいう」と規定されている。また、個人事業者については、消基通1-1-1において「事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいう」とされている。

3.    帳簿及び書類の保存要件

消法30条7項本文において、事業者が、当該課税期間の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、同法30条1項の仕入税額控除を適用しない旨が規定されている。すなわち、「帳簿及び請求書等」の保存が、仕入税額控除の要件である。

これは、現実に課税貨物の引取りがあり、それに係る消費税額を負担したことが証明されたとしても、「帳簿及び請求書等」の保存がなければ仕入税額控除が許されないとするものであり、納税者に厳しい形式的要件を課すものである[21]

ここでいう課税貨物に係る消費税額の控除に必要となる「帳簿」及び「請求書等」は、それぞれ次のとおり示されている。

  • 帳簿に記載すべき事項(消法30条8項3号)。
  • 課税貨物を保税地域から引き取った年月日
  • 課税貨物の内容
  • 課税貨物の引取りに係る消費税額及び地方消費税額又はその合計額
  • 請求書等とは、輸入許可書その他これに準ずる書類をいい、次の事項が記載されているものをいう(消法30条9項5号)
  • 納税地をを所轄する税関長
  • 課税貨物の引取可能年月日
  • 課税貨物の内容
  • 課税貨物に係る消費税の課税標準額、消費税額及び地方消費税額
  • 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

 以上のように、課税貨物に係る消費税の仕入税額控除を受けるためには、形式的要件として、帳簿への記載及び課税貨物の引取を行った事業者が税関長から交付を受ける輸入許可書の保存が求められている。

4.    消費税法基本通達11-1-6⦅実質的な輸入者と輸入申告名義人が異なる場合の取扱い⦆

 関税の割当制度又は関税の軽減又は免除を受けるため、一定の資格を有する者が輸入申告をしなければならない場合(この申告を「限定申告」という。)には、実質的な輸入者と輸入申告名義人が異なる場合が生ずることがある。

例えば、関税定率法13条1項⦅製造用原料品の減税又は免税⦆は、飼料製造のための原料であるトウモロコシ等の輸入について、一定の要件の下で関税の免除を認めている。その際、その免除を受けるには、税関長の承認を受けた製造者を輸入申告名義人とする限定申告によって輸入申告を行う必要がある(関税定率法施行令7条2項)。

当該トウモロコシ等につき、商社が、製造者を限定申告者として輸入し、輸入後に製造者に販売するという取引形態が存在する。この場合、当該商社(消基通11―1―6上の「実質的な輸入者」)が輸入消費税を実質的に負担しても、輸入申告名義人は製造者であるため、商社は仕入税額控除の適用を受けることができないという問題が生ずる。

消費税の観点からみれば、商社が自ら輸入申告名義人となれば仕入税額控除の適用は可能であるが、そうすると関税定率法13条1項の免税措置を受けられず、輸入に係る事業全体の経済合理性が失われる結果になりかねない。

一方で、仮に輸入申告名義人である製造者に輸入消費税を負担させたとすると、当該製造者は輸入時の負担に加え、商社から当該トウモロコシを買い取る際にもう一度消費税が課税されることになり、取引の実態と消費税の負担とが一致せず不自然な形態となってしまう[22]

このような問題に対処するために、消基通11-1-6は、限定申告者と実質的な輸入者が異なる場合であっても、次の全ての要件を満たすときは、実質的な輸入者が輸入消費税について仕入税額控除の適用を受け、限定申告者は実質的な輸入者からの買取りについて課税仕入れに係る消費税額を仕入税額控除の対象とするという取扱いを認めている[23]

  • 実質的な輸入者が、輸入申告後にその課税貨物を輸入申告名義人に有償で譲渡する。
  • 実質的な輸入者が、当該課税貨物の引取りに係る消費税額等を負担する。
  • 実質的な輸入者が、輸入申告者名義の輸入許可書及び同名義の引取りに係る消費税等の領収証書の原本を保存する。

もっとも、消基通11―1―6の適用対象となる「限定申告」が行われる事例は実務上きわめて稀である。特に、本研究で対象とする越境EC販売取引における国外事業者の輸入事例とは関連性の低いものである。したがって、本通達は例外的な特例として理解しておくべきものである。

第3節         関税法の規定

1.    貨物を輸入しようとする者(輸入者)と消法30条1項の「事業者」との関係

関税法上の申告納税義務者は、原則として、「貨物を輸入する者(輸入者)」とされ(関税法6条)、「輸入」とは、外国から本邦に到着した貨物又は輸出の許可を受けた貨物を本邦に引き取ることをいう(関税法2条1項1号)とされていることから、関税法上の「貨物を輸入する者」と消費税法上の「外国貨物を保税地域から引き取る者」は同一の者を指す[24]

もっとも、筆者は、消法30条1項の輸入消費税の仕入税額控除ができる「事業者」が、必ずしも「貨物を輸入する者」と同一である必要はないと考えている。すなわち、「輸入者」であることと「仕入税額控除を行うことができる者」は必ずしも重ならない可能性がある。

実際に、後述する欧州の裁判例においても、「輸入者」としての地位は認められながらも、付加価値税の控除権が否定された事例が存在する。このことは、輸入者=税額控除ができる者という単純な図式ではとらえきれないことを示唆している。

以上のとおり、本論文の主眼は消法30条1項における「事業者」の解釈にあるが、輸入消費税の課税構造を理解するうえで、関税法上の輸入者の意義を把握することは依然として重要である。

  • 輸入者の意義に係る裁判例

関税更正処分取消請求事件(東京地裁 平成2年10月8日判決)において、関税法6条の「貨物を輸入する者」とは、「実質的にみて本邦に引き取る貨物の処分権限を有し、すなわち実質的に輸入の効果が帰属する者をいうものと解するのが相当」であるとの解釈が示された。

なお、昭和41年関税法改正以前は「輸入申告をした者から関税を徴収する」とされていたが、改正後は「貨物を輸入する者を納税義務者とする」と改められている。本判決においても「実質的に輸入の効果が帰属する者」との解釈が示され、実質性が重視されていることが確認できる。

これに関し、福家教授は、本判決は関税法6条を「実質的に輸入の効果が帰属する者」と解釈しており、「処分権限を有する者」との理解と合わせると、法的実質主義を否定するものではないが、むしろ経済的実質主義に立脚しているように見える。金子宏『租税法』が指摘するように「経済的帰属を決定することには実際上多くの困難が伴う」と評している[25]

 

  • 令和5年関税法基本通達改正

近年の越境ECの普及等に伴い、輸入取引の形態が多様化したことを受け、令和5年10月の関税法基本通達改正では、関税法6条に規定される「貨物を輸入しようとする者」の意義が明確化された。

本改正において、「処分権限を有する者」が輸入者の意義として採用されたのは注目すべき点である。「処分権限」とは、関税関係法令に明文の定義規定はないものの、税関職員への確認によれば、実務上は、「貨物を国内に引き取った後に当該貨物をいかに取り扱うかを決定する権限であり、例えば、販売し、売買契約に合意するか否かを決定する権限等」を意味すると解されている[26]

関税法基本通達 6―1 
(納税義務者に関する用語の意義) 法第 6 条に規定する納税義務者に関する用語の意義は、それぞれ次による。 (1) 「貨物を輸入する者」とは、輸入取引(定率法第 4 条第 1 項に規定する輸入取引をいう。後記 67―3―3 の 2 において同じ。)により輸入される貨物については、原則として仕入書(仕入書がない場合には船荷証券等)に記載されている荷受人 ・・・をいい、貨物が輸入の許可前に保税地域等において転売されたような場合には、その転得者をいう(以下これらの者を「輸入者」という。)。  

関税法基本通達 67―3―3 の 2 (貨物を輸入しようとする者の意義) 令第 59 条第 1 項第 1 号に規定する「貨物を輸入しようとする者」の意義については、次による。 (1) 輸入取引により輸入される貨物については、前記 6―1(1)に規定する「貨物を輸入する者」と同様とする。 (2) 上記(1)以外の場合には、輸入申告の時点において、国内引取り後の輸入貨物の処分の権限を有する者をいい、その者以外に輸入の目的たる行為を行う者がある場合にはその者を含むものとする。この場合において、輸入の目的たる行為を行う者とは、例えば、次に掲げる者が該当する。 イ 賃貸借契約に基づき輸入される貨物については、当該貨物を賃借して使用する者 ロ 委託販売のために輸入される貨物については、当該貨物の販売の委託を受けて自己(受託者)の名義をもって販売する者 ハ 加工・修繕のために輸入される貨物については、当該貨物を加工・修繕する者 ニ 滅却するために輸入される貨物については、当該貨物を滅却する者 なお、当該「貨物を輸入しようとする者」は、法第 6 条の規定に基づき、当該貨物に係る関税を納付する義務を負うことになるので留意する。

第4節         小括

本章では、研究目的である消法30条1項の「事業者」の法解釈を検討するに先立ち、その前提となる課税貨物に係る消費税及びその仕入税額控除制度の基本的構造と趣旨を整理した。

日本の消費税は仕向地主義を採用しており、物品が最終的に消費される国で課税し、クロスボーダー取引でも国内取引と同等の税負担となるよう調整が図られている。具体的には、仕入税額控除型の付加価値税制度を採るわが国においても、主に2つの手当を施している。第一に、輸出取引については免税取引とし、当該輸出に係る前段階の課税仕入れに含まれる消費税額は仕入税額控除の適用によって還付を受ける。第二に、輸入取引については、保税地域からの引取り時に国内取引と同様の税率により課税され、輸入品に国内品と同等の税負担を課すことによって、国内産品と輸入品の最終価格に含まれる消費税負担を同水準に維持し、競争条件の中立性を確保している。

このように仕入税額控除は、単なる控除機能にとどまらず、国際的な競争中立性を担保するうえで根幹的役割を果たしている。

続く次章及び次々章では、我が国及び欧州を中心とする諸外国の裁判例を分析し、これらから得られる示唆を、さらにその後の章において本章で整理した法制度の構造と照応させつつ、消費税法30条1項における「事業者」概念の解釈のあり方を検討することとする。

第2章 我が国の裁判例の分析

我が国において、課税貨物に係る消費税の仕入税額控除について正面から争われた裁判例は限られているが、代表的なものとしては、以下に取り上げる東京地裁平成20年2月20日判決(消費税更正処分等取消請求控訴事件)[27]がある。本章では、輸入消費税の仕入税額控除ができる事業者に該当するか否かが争点となった本判決を取り上げ、その事業者該当性について裁判所が示した法解釈を中心に整理する。本判決は、実質的に輸入消費税を負担した者と輸入申告名義人が異なる場合の取扱いについて一定の示唆を与えるものとして、重要な意義を有している。

第1節      東京地裁平成20年2月20日判決

1.    事案の概要

本件は、日本法人X株式会社が中国法人A有限公司に水引製品の加工を委託し、輸入手続を日本法人K株式会社に依頼して行った取引に関するものである。Xは、Aから製品の引渡しを受けるにあたり、対中国貿易実務の経験を有するKに輸入手続を委託した。Kは、自らを仕入書等の輸入関係書類上の荷受人として製品の輸送を行い、さらに輸入申告名義人として輸入申告及び輸入消費税の納付を行った。Xは、Kに対し、手続費用として輸入金額の12%を支払うとともに、Kが納付した輸入消費税相当額を併せて支払っていた。Xは、当該輸入消費税は自己が実質的に負担したものであるとして仕入税額控除を主張したが、所轄税務署はこれを認めず更正処分及び過少申告加算税の賦課決定を行ったため、Xがその取消しを求めて提訴した事案である。

2.   争点と当事者の主張

  • 争点1: Xは、本件輸入消費税の納税義務者に該当し、消法30条1項により「保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された消費税額」の控除を受けられる事業者であるといえるか。
国の主張納税者の主張
消法30条1項により控除される消費税額は、当該事業者が「課された」消費税額であり、仕入税額控除を受ける事業者自身に消費税が課されたことを予定しているというべきである。   消法47条1項は、関税法6条の2第1項1号に規定する申告納税方式が適用される課税貨物を保税地域から引き取ろうとする者は、原則として輸入消費税に係る申告書を税関長に提出しなければならないと規定しているところ、そもそも申告納税制度は、納税申告に対し、原則として既に国家と納税義務者との間に成立している納税義務の確定という公法上の効果を付与するものであるから、本件においては、輸入消費税の申告納税を行ったK社が公法上確定した納税義務者であり、およそ輸入消費税の申告納税を行っておらず申告納税義務者でないXは、消法30条1項によって仕入税額控除を受けることができる事業者には該当しない。   なお、Kは、各課税期間の全期間において、のべ266回にわたり、主体的に外国貨物の引取行為を行っており、実質的にみても、Kが仕入税額控除を受ける事業者であったというべきであって、Xが実質的な輸入事業者であるとするXの主張もまた失当である。消法30条1項は、「課税貨物につき」「課された」「消費税額」を控除する旨規定し、誰に課された消費税であるかは問題とせず、その課税貨物について課された消費税額を控除するとしている。したがって、課税貨物につき真に権利、利益を有する者、すなわち課税貨物の実質的な輸入者が仕入税額控除を受け得ることを前提としており、控除を受けるためには、消費税の申告名義人であることを要しないと解すべきである。   仕入税額控除制度の趣旨は、取引の各段階における消費税の課税の累積を排除することにあるところ、事業者が「外国貨物を保税地域から引き取る者」、すなわち実質的な輸入者に該当として輸入消費税の納税義務を負っている場合には、当該事業者はまさに輸入消費税の負担を負っていることになるから、仕入税額控除により消費税の課税の累積が排除されるべき場合に当たる。   事業者が行った国内における課税仕入れについて仕入税額控除を受ける場合、課税仕入れを行った事業者の判定は消法13条の実質行為者の原則により実質的な判断がなされ、その相手方において納付すべき消費税の税額が公法上確定していることを要しないところ、課税貨物の保税地域からの引取りに係る仕入税額控除はこれと同趣旨の物であり、その要件も同様に解すべきである。   消基通11―1―6「実質的な輸入者と輸入申告名義人が異なる場合の取扱い」は、公権的解釈として、いわゆる限定申告の場合に、輸入申告名義人でない実質的輸入者に対し仕入税額控除を認めている。   本件加工取引は、すべてXとAとの間でされており、KはM製品の輸入及び原材料の輸出の手続きをXに代わって行う以外に関与することはなかったし、加工賃の支払に用いられた輸入手形は、Kを名宛人としていたものの、実際にはXの銀行口座から決済されていたのであるから、Xは、本件加工取引についての実質的な輸入者であり、仕入税額控除を受けるべき「事業者」に該当する。
  • 争点2: Xは、消法30条1項の適用要件である「帳簿及び請求書等」を保存していたか。
国の主張納税者の主張
輸入許可通知書については、Kが保存していたというにすぎず、原告がこれを保存していたということはできない。XはK名義の輸入許可通知書等の原本を、Xの履行補助者であるKを通じて保存していた。

3.   判決の要旨

  • 争点1

消法30条1項の仕入税額控除の制度は、本来、消費税を納付する課税事業者が、仕入れの際に自ら負担した税額を控除することを予定した制度と解される。「そして、保税地域からの貨物の引取りに係る輸入消費税の場合は、原則として課税事業者が輸入時に自ら納付するものとされているところ、消法30条1項が、行為の主体としては冒頭に『事業者』のみを掲げ、他に主体となるべき者の記載をしていないことは、保税地域からの引取りに係る仕入税額控除の制度が、まさに上記のとおり、原則として、課税事業者が自ら輸入段階で納付した税額を控除する仕組みであることを念頭に置いたものであると解すべきである」。

そして、「申告納税制度は、法定の納税義務者に対し、その課税内容を最も知悉する者として、法律の定める手続に従って、一定の要式により、できるだけ正確な課税内容を申告することを期待する一方、この納税申告に対し、原則として、既に国家と納税義務者との間に成立している納税義務の確定という公法上の効果を付与するものであり、納税義務者が第三者名義で納税申告することは法が予定していないところであると解される[28]」。このことから、本事案においては、「輸入消費税の申告納付は、Kの名義で行われたものであると認められる。そうすると、Kが本件輸入消費税の納税義務者であったということが公法上確定されたというべきであるから、本件輸入消費税については、原則として、Kが課税事業者として納付すべき消費税において控除されることが予定されるものであるというべきであって、特段の事情がない限り、輸入消費税の申告名義人ではないXが課税事業者として納付すべき消費税において控除されることはないと解すべきである」。

「たしかに、消法基11-1-6は、輸入申告者が単なる名義人であって実質的な輸入者が別にいるときに、実質的な輸入者に仕入税額控除の適用を認めるべき場合があることを示している。しかしながら、この通達が存在することによって、およそ消法30条1項について、一般的に実質的輸入者が仕入税額控除を受けると解釈すべきことにならないことはいうまでもない」。「そして、本件の取引は同通達が例外的に定める要件に該当しない」。

Kは、「輸入申告及び輸入許可の名宛人、関税及び本件輸入消費税等の名義人になって、これらの申告、納付をしたことに加え、Aへの加工賃の決済に使用された輸入手形の名宛人となり、原告とAとの間に立って交渉に当たり、原告から本件輸入消費税等の納付書の原本を原告に引き渡すことなく自ら保管していたのであるから、客観的にはKが製品を輸入して処分権をいったん取得した上、原告が輸入手形を決済し手数料及び輸入消費税等相当額を支払うことと引換えに、製品の処分権を移転したとみるのが自然であって、真実の輸入者がKではなくXであるとはいえない」。

  • 争点2

争点2については判断することなく、上記のとおりXは事業者該当性が無いとして訴えを棄却している。

第2節      判決を踏まえた議論の整理

1.        仕入税額控除の趣旨からみた原則的解釈

 本判決は、消法30条1項の仕入税額控除制度について、本来、消費税を納付する課税事業者が、仕入れの際に自ら負担した税額を控除することを予定した制度であると解している。そして、課税貨物に係る消費税については、課税事業者が輸入時に自ら納付するものとされているところ、原則として、消法30条1項における課税貨物に係る消費税額の控除は、課税事業者が自ら輸入段階で納付した税額を控除する仕組みであると解するのが相当であるとしている。

 さらに本判決は、申告納税制度においては、納税義務者が自らの名義で輸入申告を行うことを前提としており、第三者名義による申告は法が予定していないと指摘する。本件では、輸入申告及び納付がK社名義で行われたため、K社が「自ら輸入段階で納付した税額を控除」し得るのであって、特段の事情がない限り、輸入申告名義人でない原告Xは、課税事業者として控除を行うことはできないと判断されたものである。

以上のように、本判決は、輸入申告名義人=納税義務者=控除主体という三層構造を前提とした原則的解釈を示している。

金井は、このような原則論を支持し、外国貨物を保税地域から引き取る権利を有する者は、輸入消費税を申告納付した者であって、輸入消費税を申告納付した者以外の者は、「引き取る者」となり得ないと指摘する。貨物の輸入に当たって仕入税額控除の適用を受ける者は、輸入する貨物の所有権や輸入に係る消費税の実質的な負担にかかわりなく、輸入に係る消費税の納税義務者として課税された者、すなわち輸入申告名義人が誰であるかにより判断されるべきであると論じている[29]

他方で、図子は、この判示を「原則」を示すものと評価しつつも、特段の事情がある場合には、輸入申告名義人以外の者にも仕入税額控除を認める余地を残したものであると指摘する。図子は、仕入税額控除制度が「実際に負担した消費税の控除」を目的とする点に鑑みれば、消法30条1項の「事業者」を、単なる輸入申告名義人より広く解することは、可能な解釈であると論じる[30]

 確かに、本判決がいう「仕入税額控除の制度は、本来、消費税を納付する課税事業者が、仕入れの際に自ら負担した税額を控除することを予定した制度」であるとの趣旨を踏まえると、輸入申告及び納付行為を行った者と、実際に税額を負担した者とが異なる場合に、後者が「負担した税額を控除」し得ると解することは、制度趣旨に照らして不自然ではない。現に、特例的な位置づけではあるものの、輸入申告名義人でないが実際に税額を負担した者に仕入税額控除を認める旨を定める消法基11-1-6(実質的な輸入者と輸入申告名義人が異なる場合の取扱い)が存在することも、このような仕入税額控除の制度趣旨との整合性を裏付けるものといえる。

もっとも、本判決は、消法基11-1-6の存在を理由に一般的に広く実質的輸入者が仕入税額控除を受けると解釈すべきではないと釘を刺している。それでも、図子は、「判決は、この通達が違法でないことを承認するとともに、同通達以外の場合においても、実質的輸入者に仕入税額控除を認める可能性があることを示唆している。[31]」との見解を示している。

以上より、本判決は、輸入申告名義人を原則的な控除権利者と位置づけつつも、輸入申告名義人のみに限定し得ないことを示唆しており、消法30条1項の「事業者」の解釈に一定の柔軟性を残すものであると評価することができる。

2.        納税申告の形成的効力と輸入消費税に係る仕入税額控除の要件

 判決では、納税申告をした者が、納税義務者として確定し、ひいては仕入税額控除を享受し得る者であるという原則的な関係性が示されている。

 そもそも申告納税方式とは、国税通則法16条1項1号において、「納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とし、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかつた場合その他当該税額が税務署長又は税関長の調査したところと異なる場合に限り、税務署長又は税関長の処分により確定する方式」と定められている。そして、この申告納税方式においては、「一旦私人が自ら納税義務を負担するとして納税申告をしたならば、実体上の課税要件の充足を必要的な前提条件とすることなく、当該申告行為には租税債権関係に関する形式的効力が与えられ、(そのうえで)税額の確定された具体的な納税義務が成立することになる。したがって、納税申告行為が無効ではなく、有効に成立している以上、結果的に実体上の課税要件事実が発生しなかったというだけで、形成された納税義務者としての地位が否定されるものではない」と解されている[32]

 この点を踏まえ、佐藤は、「納税申告の形成的効力とは、申告者(実体法上の納税義務者であったとは限らない)と国との間の租税債権(債務)関係について生ずるものであり、租税債権(債務)の基礎となる課税要件に該当する具体的事実(課税要件事実)を確定するものではなく、他方、納税義務は、課税要件事実の充足によって生ずるものであるから、Kが行った本件輸入消費税の申告により、Kと国との間に本件輸入消費税に係る租税債権(債務)関係が形成されたということから、直ちに、Kが本件輸入消費税に係る仕入税額控除の要件を充足する者であったということにはならない[33]」と論じている。

このように佐藤は、納税申告の形成的効力と仕入税額控除の要件充足とを峻別すべきであって、輸入消費税の仕入税額控除の要件充足の有無については、納税申告をしたかどうかとは別の観点から検討・判断されるべきであるという主張をしている。

3.        消法13条(資産の譲渡等を行った者の実質判定)との関係

 佐藤は、本裁判例において、具体的にどういった観点から原告Xに仕入税額控除が認めるべきか否かの検討をすればよかったかというと、原告Xの主張でも示されていた、消法13条(資産の譲渡等を行った者の実質判定)の考え方を踏まえて検討すべきであったと指摘している。

消法13条は、所得税法12条及び法人税法11条の実質所得者課税の原則の規定と同趣旨の下に、消費税においてもいわゆる実質課税の原則を適用するというものである[34]

  • 実質判定に基づく仕入税額控除ができる「事業者」判断への論理過程

消法13条は、「法律上資産の譲渡等を行つたとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、この法律の規定を適用する。」と定めている。

佐藤は、同法13条にいう「この法律の規定」には消法30条1項の規定も当然含まれると解し、輸入消費税に係る仕入税額控除の要件の充足の判定についても、形式的にではなく、諸般の事実関係に基づいて実質的になされるべきと述べている[35]

「課税物件の法律上の帰属につき、その形式と実質とが相違している場合には、実質に則して帰属を判定すべきである[36]」という実質課税の原則について、具体的にその帰属を以下に判定すべきか。この点について、横浜地裁平成13年10月10日判決[37]は、担税力の観点から次のように判示した。

「租税は、担税力を推定させる物又は行為等を課税物件として課されるものであるから、その担税力を推定させる物又は行為等が実質的に帰属する者に対して課税されるとの考え方に基づき法律で定められている。すなわち、物を課税物件として課される租税であれば、法律上の所有権、行為を課税物件とする租税であれば法律行為の効果が、それぞれ帰属していることをもって、担税力が推定され、課税される。であるから、課税物件が単に形式的に帰属するのみでは担税力があるとはいえず、実質的に権利又は法律効果が帰属して初めて担税力が推定されるので、この者を納税義務者として課税されるべきことになる。」

さらに同判決は、「法人税法11条の文言上は『収益』についてしか規定されていないが、上記説示は『費用』についても全く異なるところはない」との法解釈を示している。

これを踏まえ、佐藤は、消法30条1項が規定する仕入税額控除は、「国内において事業者が行った資産の譲渡等に対して広く消費税を課す結果、取引の各段階で課税され、課税が累積することを防止するため、公平の観点等に鑑み、前段階の取引に係る消費税を控除することとしたもの[38]」であるから、このような担税力からみた実質課税の原則の事理及び仕入税額控除の制度の趣旨・目的に照らしても、消法30条1項の規定の適用には、同法13条の考え方が及ぶと解するのが相当であるとしている[39]

 この佐藤の見解は、消法13条に基づく実質判定が、消法30条1項における仕入税額控除の主体である「事業者」の判定にも及ぶことを示唆するものと解される。もっとも、筆者としては、消法13条の文言構造が「資産の譲渡等に係る対価を享受する者」の判定を主眼としていることに鑑みれば、同条が直接的に仕入税額控除を行い得る「事業者」を判定する規定であるというよりも、まず、収益ないし対価を享受する者、すなわち納税義務者を判定する機能を有するものと整理し、その結果として、納税義務を負うこととなった当該事業者が、その事業に要した仕入れに係る消費税額について、消法30条1項に基づく仕入税額控除を行い得る主体となる、という段階的な論理構造で理解することが妥当ではないかと考える。

 こうした論理的帰結を補強するものとして、津地方裁判所令和2年10月1日判決が挙げられる。同事案において、消法13条により実質的に事業の収益ないし対価の帰属先と判断された納税義務者(原告)について、課税庁がその者の消費税額の計算において仕入税額控除を適用している。このことは、実質判定によって特定された納税義務者が、消法30条1項にいう「事業者」として控除主体になり得ることを裏付けるものと評価できよう [40]

  • 実質的に課税貨物を保税地域から引き取る者による輸入消費税の仕入税額控除の制約

 前記(1)によれば、担税力観点から消法13条に基づき判定された実質的な課税主体が、消法30条1項における仕入税額控除の適用対象たる「事業者」となり得るという論理は成立し得る。しかし、輸入消費税に係る仕入税額控除に関しては、当該課税貨物の輸入の許可があったことを証する書類等で交付を受ける「事業者の氏名又は名称」等が記載された書類の保存が手続的要件とされているから、当該輸入許可書に記載されている「事業者の氏名又は名称」が、実質的に課税貨物を保税地域から引き取った者と異なる場合には、当該実質的な事業者は、仕入税額控除の要件を満たしていないことになる。

しかし、佐藤は、この場合であっても、実質的に課税貨物を保税地域から引き取った者が当該書類を保存しており、その者の氏名又は名称が当該書類に記載されていないことに消法30条7項ただし書きの「やむを得ない事情」があると認められるときには、仕入税額控除の要件を充足すると解するのが相当であると主張する[41]

 佐藤は、消基通11―1―6「実質的な輸入者と輸入申告名義人が異なる場合の取扱い」が、実質課税の原則(消法13条)及び仕入税額控除の制度の趣旨ないし目的を根拠としたものであるとの見解の立場にある。そのうえで、同通達が定める要件(申告名義人による限定申告当)を充足していないとしても、なお「やむを得ない事情」が認められるのであれば、実質的に課税貨物を引き取る者につき、輸入消費税に係る仕入税額控除が認められるべきであると論じている。

  • 「やむを得ない事情」の解釈

前述(2)の通り、佐藤は、消法13条の実質課税の原則の観点から「実質的に課税貨物を引き取る者」との実質的な課税主体となり、そのうえで、消法30条7項ただし書き「やむを得ない事情」が認められる場合には、たとえ輸入申告名義人が異なる場合であっても、「実質的に課税貨物を引き取る者」に仕入税額控除を認め得ると論じている。図子も、仕入税額控除の趣旨に照らし、「特段の事情がある場合には、輸入申告名義人以外の者にも仕入税額控除を認める余地を残したものである」とし、消基通11―1―6に限定されない場面においても「判決は、この通達が違法でないことを承認するとともに、同通達以外の場合においても、実質的輸入者に仕入税額控除を認める可能性があることを示唆している。」との見解を示している。

しかしながら、佐藤・図子の両者とも「やむを得ない事情」又は「特段の事情」がいかなる事情を指すのかについては明示しておらず、佐藤は、その点については東京地裁で審理を尽くして判示すべきであったとの批評にとどまっている。

この事情が何たるかについて、大場[42]は、平成20年東京地裁事案と同様に、輸入申告名義人でない者が実質的に課税貨物を「引き取る者」であるか否かが争われた、国税不服審判所の裁決例[43]を参照すべきであると述べている。

当該裁決では、外国貨物を保税地域から「引き取る者」について、輸入申告をする名義人に限るとした結果、徴税の確保や税負担の衡平を図ることが著しく困難になるような「特段の事情」が認められる場合、その例外を認めるべきであると判示した。具体的には、以下の3つの類型を挙げている。

  • 不正な手段によって輸入取引に係る税の賦課徴収を不能又は著しく困難にしている場合
  • 輸入申告の資格が法令上限定されているため、輸入申告者が単なる名義人にすぎず、実質的な輸入者が別に存するがゆえに課税上の不均衡が生じ、税負担の衡平を害することとなるような場合(例えば、商社が製造用原料品の輸入を行い、関税の減免を受けるべく、税関長の承認を受けた製造工場の製造者の名をもってその輸入申告を行うと、その商社は仕入税額控除を受けられず、その引取りに係る消費税等を輸入申告の名義人である製造者が負担するとすると、製造者は商社から製造用原材料を購入する際にも消費税等を負担し、消費税等を二重に負担することになる。)
  • これらに準ずる事情が認められる場合

 以上の3類型に該当する場合には、外国から本邦に到着した貨物を本邦において引き取って実質的に処分することのできる者も外国貨物を保税地域から「引き取る者」に当たるというべきであると判示した。

また、本裁決は、これらの事情が認められる場合に当たるか否かは、輸入の態様、当該輸入に関与した者の、輸出者との交渉、信用状の開設、代金の決済等の輸入手続の関与の仕方、課税貨物の国内における処分方法の実態、当該輸入取引による利益の帰属関係等の事情を総合考慮して判断するのが相当であると結論付けている。

第3節      小括

本章では、我が国における裁判例及び学説の検討を通じ、消法30条1項における課税貨物に係る消費税の仕入税額控除を行い得る事業者の範囲について、裁判所が示した原則的解釈を確認した。原則としては輸入申告名義人が仕入税額控除の主体とされている一方で、仕入税額控除制度の本来的趣旨に鑑みれば、輸入申告名義人に限定されない柔軟な解釈の余地が残されていることを確認した。

また、輸入消費税の申告行為がもたらす形成的効力は、申告者と国との間の租税債権(債務)関係を成立させるにとどまり、納税義務者か否かを確定させるものではないとする有識者の意見もあり、その点を踏まえても、単に輸入申告名義人だからといって仕入税額控除の要件を充足する「事業者」に該当するわけではないと解される。

さらに、消法13条に基づく実質判定、すなわち担税力の帰属という観点から、「実質的に課税貨物を引き取る者」かどうかを評価し、かかる実質判定により課税主体と認められれば、たとえ別の者が輸入申告名義人であったとしても、実質的に課税貨物を引き取る者に仕入税額控除を認め得る余地は存在することを確認した。しかし、「事業者の氏名又は名称」等が記載された輸入許可書の保存という手続的要件の制約を考慮すれば、実質的に課税貨物を引き取る者に仕入税額控除を認めるのは、あくまで消法30条7項ただし書きに規定する「やむを得ない事情」が認められる場合に限られる。この「やむを得ない事情」については、国税不服審判所の裁決例から、その判断の参考とすべき類型を確認した。

ところで、筆者が調査した限りにおいて、我が国においては、輸入申告名義人でない者が実質的に課税貨物を引き取る者に該当するとして仕入税額控除の可否を争った裁判例は本章で検討した通り存在するものの、逆に、輸入申告名義人であった課税事業者に対して輸入消費税の仕入税額控除を否認した事例、又はこれに基づく訴訟の裁判例は確認されていない。したがって、実務上は、本章で取り上げた原則的扱いのとおり、輸入申告名義人であって形式的要件を充足する限り、仕入税額控除は容認されているのが実情と考えられる。

諸外国の状況に目を向けると、欧州連合(European Union:EU)においては、輸入に係る付加価値税(Value Added Tax:VAT)の税額控除につき、一定の事業者には認めないとする税務当局等の判断及びそれに関連する判例が存在することが確認できる。他方、EU以外の国や地域については、同様の事例を確認するには至っていない。

日本の消費税は、消費税制度導入当時のEC(現EU)の付加価値税制度を参考にして設計された経緯があり、その制度趣旨及び基本的枠組みにおいて共通する部分が多いとされている[44]。以上を踏まえ、次章では、諸外国のうちEUにおける付加価値税の制度及び関連判例に焦点を当て、特に輸入に係る付加価値税の税額控除が認められる事業者に関する議論を分析する。

第3章 EU付加価値税制度と判例分析

本章では、EUにおける輸入に係る付加価値税及びその税額控除に関する制度概要を整理したうえで、関連判例を確認する。

第1節         EUの付加価値税制度

1.    制度概要

付加価値税は、1954年にフランスで採用された(これに先立ち、我が国でも1950年にシャウプ勧告に基づき、事業税に代わるものとして、加算型の付加価値税(消費税ではなく一種の収益税)が採用されたが、実施されないまま1954年に廃止された)が、その後、ヨーロッパ経済共同体(EEC → EC → EU)の共通税として加盟各国に導入され、さらに他の欧州諸国をはじめとして多数の国々で採用されている[45]。このように、EUの付加価値税は付加価値税制度の先達として位置づけられ、我が国の消費税制度もEUの付加価値税を多く参照してきている[46]

また、EUの付加価値税は、日本の消費税制度と同様に、税額算定の仕組みとして「仕入税額控除法(前段階税額控除法)」を採用している。すなわち、課税期間内の総売上金額に税率を適用して得られた金額から、同一課税期間内の仕入に含まれていた前段階の税額を控除することによって、納付すべき税額を算出する仕組みである[47]

付加価値税含む間接税分野は、EU税制の中でも最も調和が進んでいる分野と評価されている[48]。単一市場の理念に基づき、域内市場において、制度の違いによって、ある加盟国が他の加盟国に対して不当な優位性を得ることで経済競争が歪められることが無いよう、共通の規律に沿った運用が図られている[49]

2.    EUの法体系

 EU法は、一次法(Primary Legislation)、二次法(Secondary Legislation)に分類される。一次法とは、EUの基本条約を指し、二次法は一次法を根拠として制定される法規であり、規則(Regulation)、指令(Directive)、決定(Decision)、勧告(Recommendation)及び意見(Opinion)が存在する[50]。このうち、法的拘束力を有するのは、一次法である条約並びに二次法のうち規則、指令及び決定であり、勧告及び意見には拘束力はない[51]

規則(Regulation)は、加盟国側の国内立法を経ることなくすべての加盟国に対して直接適用される。他方で、指令(Directive)は、加盟国に対し一定の法的拘束力を及ぼすものの、その具体的な制度内容や実施方法については各加盟国に裁量が認められており、適用にあたっては各加盟国内での実施手続(国内法の制定等)が必要となる[52]

 付加価値税分野においては、現行の付加価値税共通指令として、2006年11月28日に公布された「付加価値税の共通制度に関する理事会指令(Directive No.2006/112、以下「VAT指令」)という。」が存在する。各加盟国は、このVAT指令を立法根拠として自国の付加価値税法を制定し、国内法を整備、運用することが求められている[53]

3.  輸入付加価値税及びその控除に関するVAT指令等の詳細規定

  • 輸入の定義

VAT指令30条は、輸入を「欧州連合の機能に関する条約24条に定める自由流通が認められていない資産(すなわち、EU域外からの外国貨物)がEU域内に入ること」と定義している。

  • 課税標準

貨物の輸入に係る課税標準額は、関税価格(Value for Customs Purposes)である(VAT指令85条)。当該関税価格は、欧州連合関税法典(Union Customs Code, 以下「UCC」という。)の規定に基づき算定される。

  • 課税の対象 

 VAT指令70条は、”The chargeable event shall occur and VAT shall become chargeable when the goods are imported” すなわち、EU域外からEU域内に資産を輸入した時点で輸入付加価値税を課すると規定している。

  • 申告納税義務者

輸入付加価値税は、輸入が行われる加盟国において、輸入付加価値税の納税義務者として指定され又は認められた者が納付しなければならない(VAT指令201条)。原則として、ほぼすべての加盟国において、各国の関税法上の定めにより、関税の債務者又はその通関代理人を輸入付加価値税の納税義務者として定めている[54]

UCC77条3項によれば、関税の債務者(debtor)とは輸入申告名義人(declarant)であり、輸入申告名義人とは、自らの名義で輸入申告書等を提出する者をいう(UCC5条15項)。

もっとも、輸入付加価値税の申告納税義務者と、前段階税を控除し得る者は区別して考える必要がある[55]。輸入付加価値税の納税義務者は、輸入付加価値税が関税とともに通関時に課税される便宜上、関税の債務者とされているが、輸入付加価値税を前段階税として控除する資格を有する者は、後述するVAT指令168条のとおり、輸入貨物を課税取引に使用する事業者である[56]

  • 前段階税の控除ができる事業者

資産及び役務の仕入れに対して課される税額は、VAT指令では「前段階税(Input Tax)」と呼ばれている[57]

 本研究で焦点としている輸入付加価値税の前段階税に係る控除規定は、VAT指令168条に以下のように規定されている(関連部分抜粋)。

In so far as the goods and services are used for the purposes of the taxed transactions of a taxable person, the taxable person shall be entitled, in the Member State in which he carries out these transactions, to deduct the following from the VAT which he is liable to pay:

[…(a)~(d)省略]

(e) the VAT due or paid in respect of the importation of goods into that Member State

すなわち、課税事業者が課税取引の目的で商品及び役務を使用する限りにおいて、事業者は、当該取引を行う加盟国において、納付すべき付加価値税額から以下の前段階税を控除する権利を有する。そのうち、(e)は、当該加盟国への貨物の輸入に関して課された又は支払われた付加価値税を控除対象とする旨を明示している。

  • 形式的要件

 日本の消費税制度と同様、前段階税の控除を受けるためには、形式的要件を充足しなければならない。具体的には、輸入付加価値税に係る前段階控除を受けようとする事業者は、「当該事業者を荷受人又は輸入者として特定され、かつ納付した付加価値税額又は付加価値税額の計算基礎が記載された輸入通関書類を保持していなければならない(VAT指令178条)」。

 

4.  VAT委員会及びガイドラインによる解釈

VAT委員会は、VAT指令に基づく規定の統一的な適用を確保することを目的として1977年に設置された諮問機関であり、加盟国代表及び欧州委員会の代表で構成されている(VAT指令398条)。

VAT委員会は、欧州委員会又は加盟国から提起された付加価値税に関する諸問題について審議し、特定の論点に関するガイドライン(Guidelines)を策定、公表することができる。しかし、このガイドラインは法的拘束力を有しない点に留意を要する[58]

なお、2011年10月19日開催のVAT委員会会合の結果を踏まえて公表されたガイドラインでは、VAT指令168条が規定する輸入付加価値税の控除を行うことができる「事業者」について、以下の両要件を満たす場合には、控除を受ける権利を有しないとの解釈が示されている[59]

  • 事業者が、輸入貨物について所有者として処分の権限を有しない場合
  • 輸入貨物のコストが当該事業者の経済活動との直接かつ即時の関連性を有しない場合

第2節         輸入付加価値税控除否認事案― C-621/19 - Weindel Logistik Service判決(欧州連合司法裁判所・2020年10月8日)―

本件は、スロバキア共和国(以下、「スロバキア」という。)において輸入申告名義人であったWeindel Logistik Service(以下、「Weindel社」という。)が、同社が納付した輸入付加価値税について、VAT指令168条に定める前段階税控除を受け得る事業者に該当するか否かが争われた事案である。VAT指令168条の解釈に関し、事業者該当性の判断基準を詳細に示したものとして示唆に富む。

1.  欧州司法裁判所の位置づけ

欧州司法裁判所(Court of Justice of the European Union, 以下、「CJEU」という。)は、EUの機関によって定められた法規の解釈や適用関係を明らかにすることを目的とする機関である。各加盟国の国内裁判所における個別の訴訟においてEU法の解釈又は適用について疑義が生じた場合に、当該裁判所はCJEUに対し先決裁定(Preliminary ruling)を付託し、CJEUは統一的解釈を示す[60]

本事案では、スロバキア最高裁判所が判決を行うにあたり、輸入付加価値税の税額控除に関するVAT指令168条の解釈について欧州司法裁判所(CJEU)に先決裁定を付託したものである。

なお、先決裁定において示されたEU法の解釈は法的拘束力を有し、照会を求めた裁判所のみならず、加盟国の全ての裁判所を拘束することで、EU法の統一的運用解釈を保障する役割を果たしている[61]。このように、CJEUの先決裁定判決はEU法解釈に拘束力と先例性を備えたものとして機能することから、本論文では、本件CJEU判断を「判例」として位置付けることとする。

2.    事案の概要

本事案の原告は、スロバキアの物流事業者であるWeindel社である。同社は2008年、スイス顧客が所有する機械電子部品を、スイス、香港、中国からスロバキアに輸入し、顧客から受託したリコンディショニング業務(製品の外観検査、清掃、仕分け、再梱包等)を行う目的で、自ら輸入申告名義人となり輸入し、輸入付加価値税を納付していた。

Weindel社がリコンディショニングをした後、その製品は他のEU加盟国に供給されるか、或いは第三国に輸出されていた。リコンディショニングの役務提供は、一貫して所有権を保有していたスイスの顧客に対し提供され、Weindel社が発行する請求書には、リコンディショニング業務のみが記載されていた[62]

Weindel社は、輸入申告名義人として自己が納付した輸入付加価値税について、スロバキアVAT法51条1項d号[63]に定める控除権を有するとして申告していた。これに対し、本事案の被告であるスロバキア税務当局は、Weindel社はVAT法49条2項[64]及び51条1項号を充足しないとして、2011年頃から2018年頃にかけて複数回にわたり、Weindel社に対し、輸入付加価値税の控除を否認する更正処分を行った。

Weindel社は、当該更正処分の取消しを求めて繰り返し不服申立て及び訴訟を提起しており、その経緯を以下の通り簡単に整理した。本経緯については、CJEU判決(C-621/19, Weindel Logistik Service[65])を参照し整理した。

更正処分(1)とその訴訟経緯概要
2012年6月20日ブラチスラバ地方裁判所(第一審)Weindel 社は、不服申し立てを経て、税務当局による更正処分の取消しを求めて訴えを提起したが、当該取消請求は棄却された。これを受け、Weindel 社は控訴した。
2013年1月15日スロバキア最高裁判所(控訴審)最高裁判所は、第一審判決は法に反するとして税務当局が行った更正処分の取消命令を下した。 主たる判断理由: 控除を受けるための要件として「所有権」は法で明記されていない。輸入が無ければWeindel社は輸入貨物に係るサービスを提供できなかった。税務当局の処分は中立課税の原則に反する。 中立課税原則とは、EU付加価値税の基本理念であり、「税負担は最終消費者が負うべきであって、事業者が税負担を負うべきではない」とする考え方をいう。EU において、事業者の前段階税控除権は基本的権利と位置づけられ、原則として「事業目的での仕入及び売上があれば、その控除は認められるべき[66]」とされている。
更正処分(2)とその訴訟経緯概要
上記の最高裁判決が確定し、また、取引事実に変更がないにもかかわらず、スロバキア税務当局は、前述のVAT委員会ガイドラインを根拠にWeindel社の控除権を再度否認し、更正処分を行った。これに対し、Weindel社は不服申し立てをするが却下されたため、改めて訴えを提起した。
2015年12月1日ブラチスラバ地方裁判所(第一審)地方裁判所は、2013年の最高裁の拘束力ある決定に従うべきとし、裁判所は税務当局に対し、更正処分の取り消しと再審査を命じた。 これに対し、税務当局は判決を不服として控訴するとともに、「最高裁は、VAT指令168条の解釈についてCJEUに予備判決を付託すべき」と主張した。
2018年1月31日スロバキア最高裁判所(控訴審)最高裁判所は、CJEUへの予備判決請求は行わないが、税務当局の主張を認容して、一連の更正処分を支持し、2013年の判決を破棄した。 主たる判断理由: 過去の判例に照らし、Weindel社の事例には「直接かつ即時の関連性」がないため前段階税の控除を認めるべきでないと判断した。ECJ 2000年6月8日判決(Midland Bank事件C-98/98、EU:C:2000:300)において、前段階税控除は、原則として、Input-Output間の「直接かつ即時の関連性」が存在し、InputがOutput取引の価格構成に組み込まれていることを必要とすべきと判示されている。ECJ2005年5月26日判決(Kretztechnik事件C‑465/03、EU:C:2005:320)は、一定の支出が課税事業に使われる全体的な経済活動の共通経費(overhead)である限り、直接かつ即時の関連性は認められると判示したが、Weindel社の事例に当てはまるものではなく、直接かつ即時の関連性は認められない。   本控訴審判決を受け、Weindel社は「憲法に基づく司法保護を受ける権利並びに公正な裁判を受ける権利を侵害されており、控訴審判決の無効を求める」として上告した。
2018年10月11日スロバキア憲法裁判所(憲法審査)憲法裁判所は、最高裁がWeindel社の基本的権利を侵害したと判断し、2018年1月の最高裁判決を取り消し、最高裁に差し戻して再審理を求めた。 本憲法裁判所の判決を受け、最高裁は手続きを停止し、CJEUに予備判決請求を行うこととした。

3.    争点

スロバキア最高裁は、VAT指令168条の解釈を明確にするため、以下の3点についてCJEUに予備的判決を求めた。

  • 第一質問: VAT指令168条は、輸入付加価値税の控除権の行使にあたり、輸入者が当該貨物につき所有権又は所有者としての処分権を有していることを要件とするのか。
  • 第二質問: VAT指令168条は、輸入付加価値税は、輸入貨物が課税取引(当該輸入貨物の国内における販売、第三国への輸出等)に用いられる場合に限って控除権を認めるべきと解すべきか。
  • 第三質問: VAT指令168条の、取得された輸入貨物と後段階取引との間の「直接かつ即時の関連性」に基づく控除権の共通解釈は、当該輸入貨物の取得費用が実際には負担されておらず、結果として後段階取引の価格に反映されていない場合にも適用され得るのか。

4.    争点に関する原告及び被告の主張

被告(スロバキア税務当局)の主張原告(Weindel社)の主張
Weindel社は輸入貨物の所有者でない。輸入者が輸入貨物について、(i)輸入者が当該貨物を所有者として処分できない場合、及び(ii)輸入貨物の取得費用が輸入者の経済活動と直接かつ即時の関連性がない場合、輸入者は支払った輸入付加価値税の控除権を有さないと解すべき。Weindel社は輸入貨物取得のために費用を負担しておらず、後段階の取引価格に組み込まれるべきコストを負っていない。よって、輸入コスト(取得費用)と輸入後のWeindel社の経済活動との間に直接かつ即時の関係がない。輸入貨物の所有権を有することは控除権を決定する要件ではない。Weindel社は、リコンディショニングという経済活動を実施するために貨物を輸入したため、輸入付加価値税の税額控除にかかる権利行使と経済活動との間には因果関係が存在する。そもそも輸入がなければ当該輸入貨物に関するサービス提供自体が不可能であった。輸入付加価値税(前段階税)の控除要件として取り上げられている「直接かつ即時の関連性」について、輸入貨物の価格が後段階取引価格に組み込まれていることを求めるとすれば、それは一定の事業者にとっては達成不可能な要件を課すものに他ならない。

5.  判決の要旨

  • 第一及び第二の質問について

第一及び第二の質問は一体として検討する必要がある。VAT指令168条は、輸入者が、所有権者等として輸入貨物の処分権を有しておらず、当該輸入貨物を課税対象取引のために使用していない場合で、さらに、当該財貨のコスト(輸入貨物の価値)が経済活動(同貨物を用いた販売又は役務提供等)と直接かつ即時の関連性がない場合に、その輸入者に輸入付加価値税の控除権を付与することを禁止するものと解釈すべきかが問われている。

VAT指令168条の文言は、課税事業者が、その課税対象取引のために使用される輸入貨物に対する付加価値税について、自身が納付すべき付加価値税から控除できる旨を定めている。

しかし、過去の判例によれば、VAT指令第168条の適用には、原則として、前段階取引が後段階取引と直接かつ即時の関連性を有することを必要としている。すなわち、仕入れに係る付加価値税の控除を認めるためには、原則として、特定の前段階取引と、控除対象となる1又は複数の後段階取引との間に、直接かつ即時の関連性が存在することが必要であり、その関連性によって控除権の有無及びその範囲が判断される。

前段階の財貨又はサービスの取得に課される付加価値税が控除対象となり得るのは、これらの取得に要した費用が、後段階取引の価格構成要素の一部を構成することを前提とすることとされている。ただし、一定の支出で、課税事業である全体的な経済活動の共通経費として使用されるものは、直接かつ即時の関連性を有していると認められるとの判例もある。

スロバキア最高裁判所は、その更正処分において、Weindel社はサービス提供者としてのみ関与し、輸入した財貨を取得したり輸入コスト(取得費用)を負担したりしていない点を強調し、本件においては、輸入付加価値税の支払いとWeindel社が提供するサービスとの間の関連性が欠如していることが指摘されている。この関連性の有無の確認は、スロバキアの裁判所が判断すべきことである。

輸入付加価値税の控除権に関する最近のCJEU判例(2015年6月25日、DSV Road事件、C-187/14、EU:C:2015:421、49項)によれば、前段階取引コストが後段階の取引価格又は課税事業者がその経済活動において提供する財又はサービスの価格に組み込まれている場合にのみ、VAT指令168条が適用されるとの立場を確認している。

このDSV Road事件では、CJEUは、運送業者が貨物を輸送するという活動に限定され、その請求価格に輸送された貨物の価値が構成費用として含まれていないと認定し、VAT指令168条の適用要件は満たされないと判断した。そして、CJEUは、貨物の所有者でない者が輸入した場合、その輸入コスト(取得費用)が後段階取引価格や、課税事業者が経済活動の一環として提供する財やサービスの価格に組み込まれていることを証明できる場合を除き、付加価値税の控除権を享受できないとの判断を示した。

さらに、VAT委員会ガイドライン(2011年10月19日)において同様の見解を採用していることに注目すべきである。同ガイドラインによれば、輸入付加価値税の納税義務者として指定された課税事業者は、以下の2つの要件の両方が満たされる場合には、その輸入付加価値税を控除する権利を有しないとした。

当該ガイドラインに法的拘束力はないものの、それでもなおVAT指令の解釈にあたって参考とすべきものである。

前述のすべての考慮事項を踏まえると、VAT指令168条は、輸入者が所有者として輸入貨物の処分権を有しておらず、かつ、前段階の輸入コスト(取得費用)が存在しないか、又はそれらのコストが後段階の特定の取引価格若しくは課税事業者がその経済活動において提供する財貨やサービス価格に組み込まれていない場合には、その輸入者に対して付加価値税の控除権を付与すべきでないと解すべきである。

  • 第三の質問について

これまでの判断を踏まえると、第三の質問に回答する必要はない。

第3節                 判決を踏まえた議論の整理

1.    判決の意義

本判決は、EUにおけるVAT指令168条に基づく輸入付加価値税の前段階税の控除に関する要件について、関連する判例やガイドラインを整理しつつ、VAT指令168条の法解釈を詳細に示した点で重要な意義を有する。

本判決は、「①輸入者が所有者として輸入貨物の処分権を有しておらず、かつ(AND)、②前段階の輸入コスト(取得費用)が存在しないか、又はそれらのコストが後段階の取引価格若しくは課税事業者がその経済活動において提供する財貨やサービス価格に組み込まれていない場合(以下、「EU判例上の前段階税控除権否認2要件」又は「EU判例要件」という。)」には輸入付加価値税控除権を認めないとすべき、と結論付けた。したがって、①又は②のいずれか一方のみを満たさない場合であっても、直ちに控除権が否定されるものではないことが示されている。

このように、VAT指令168条による控除権の成立には前段階取引と後段階取引との「直接かつ即時の関連性」が必要であるとする従来の判例理論を支持しつつ、本件ではさらに、輸入貨物につき「所有者として処分権を有すること」を控除権の要件として位置づけた点に特徴がある。また、②の要件は、「直接かつ即時の関連性」という抽象的表現を、より具体的に示したものと評価でき、実務上の指針として一定の有用性がある。

本判決に対しては、学説上も肯否が分かれている。

Prof. Madeleine Merkxは、「VAT指令168条が要求する「課税取引のための使用」とは、輸入貨物の価格(コスト)が課税事業者のアウトプット(販売価格)に組み込まれている場合のみ満たされるとの見解を支持する。なぜなら、付加価値税制度の性質上『課税事業者は自らの後段階の取引価格に組み込まれた購入に係る付加価値税のみを控除できる』と解すべきだからである。であるから、輸入者が輸入貨物を所有せず、その輸入コスト(取得費用)も自己のアウトプット取引価格に直結していない場合には、控除権が認められないのは当然である。[67]」と判決を支持する立場を示している。

他方、Prof. Dr. Thomas Bieberは、「輸入申告名義人が貨物について所有者としての処分権を有さない場合であっても控除を許容すべき状況が有りうべき。条文上は、『課税取引の目的で使用される限り』控除を認めるとある以上、文理解釈にのっとり、所有者としての処分権の有無にかかわらず課税取引との直接的関連性が認められれば控除を許容すべきではないか。所有者としての処分権を要件とする解釈は過度に厳格である[68]」との批判的な見解を示している。

たしかに、Weindel事案において、本判決が求める「輸入者が所有者として輸入貨物の処分権を有する」との要件を満たすためには、EU非居住者である客先の法人は原則的にはEUで自らが輸入者となることができないため[69]、受託加工者側のWeindel社が、スイス顧客から一旦貨物を買い取るなどして「所有者としての処分権」を取得するための何らかの手当てが必要となる。しかし、加工貿易は、加工者が原材料又は製品を支給され、処分権を保持した客先のために加工を行う形態が国際的に広く採用されており、本判決は、加工貿易の促進に一定の制約・影響を及ぼす可能性がある。

2.    所有者としての処分権をめぐる議論

本判決では、VAT指令168条に基づく輸入付加価値税の控除を否認すべき要件の一つとして、「所有者として輸入貨物の処分権を有していないこと」が挙げられている。

たしかにVAT指令では、課税対象取引である資産の譲渡を「有形資産の所有者として処分する権利を移転すること(第14条1項)」と定義しており、法律上の所有権の形式的移転ではなく、「処分権の移転」を基準として取引の経済的実態を把握しようとする立場を採っている[70]。このように、EUにおいては「処分権の移転」という概念が重要視されてはいる。しかし、輸入付加価値税の前段階税控除の要件として「所有者としての処分権」を求めるのは過度に厳格であるとの批判的見解が学説上指摘されている。

VAT委員会は、2011年のガイドラインにおいて、「事業者が、輸入貨物について所有者として処分の権限を有しない場合」には控除権を認めないとの見解を示した。これを契機として、その後のCJEU判例にはガイドラインの影響が色濃く認められるようになった。すなわち、ガイドライン以前の判例は、主として「直接かつ即時の関連性」に重きを置いた議論が中心であったのに対し、ガイドライン後の2015年DSV Road事件判決では、「貨物の所有者でない者が輸入した場合…」との言及がなされ、さらに2020年Weindel事件判決において「輸入者が所有者として輸入貨物の処分権を有しておらず」と所有及び処分権について明確に言及されるに至った。

このように、VAT委員会のガイドラインは法的拘束力を有しないとしつつも、CJEUの判決に対し実質的な大きな影響力を有している点は注目に値する。

そうすると、2011年のVAT委員会において「所有権」や「処分権」が前面に取り上げられた背景が気になるところであるが、必ずしも突然提起された論点というわけでもなさそうである。

むしろ、処分権の要件は、従前から各加盟国レベルでは存在していた論点ではあった。

例えば、ドイツでは、VAT適用通達(Umsatzsteuer-Anwendungserlass)15.8(4) において、「輸入付加価値税を支払った者が誰であるかと、前段階税の控除の権利を有する事業者は誰であるかというのは関連性のないものである。[71]」としつつ、「外国事業者が国内事業者に貨物の使用は許可したが、その貨物の処分権は与えていない場合、その国内事業者は、輸入売上税を前段階税として控除する権利を有しない(1993年3月16日付連邦財務裁判所判決引用)[72]」としている。

このように、加盟国における個別の税務行政の運用、解釈が先行し、それらのEUレベルでの統一的解釈の必要性から、VAT委員会のガイドライン策定が行われたと考えられる。その流れの中で、輸入付加価値税の前段階税控除ができる事業者について正面からEU法の適法性が争われたのがDSV Road判決やWeindel判決であったと整理できる[73]

3.    輸出免税取引に対応する仕入れに課される前段階税の控除

本節2.事案の概要で述べたとおり、Weindel社がスイス顧客から物品の支給を受け、EU非居住者である同顧客に一定の加工サービスを提供した後、当該加工済製品は他のEU加盟国に供給されるか、或いは第三国へ輸出されていたとされる。

本論文は、国内販売に係る輸入消費税の仕入税額控除を主要な研究対象とするものであり、再輸出貨物の前段階税控除に関するEU側の制度を詳細に分析することは本稿の射程を超えるかもしれないが、Weindel事案の理解を補うため、以下に基本的整理を行う。

EU非居住者に対する役務提供について、VAT指令146条1項(d)は、「EU域内において行われる加工のために輸入又は取得された資産について、作業者、その加盟国で設立されたものではない作業の発注者又はそのいずれかの受託者により再輸出されることを条件として、動産に対してする作業から成る役務提供」は、輸出免税の対象となる旨を規定している。

そして、VAT指令169条は、輸出免税取引に対応する仕入れに課される前段階税について、事業者が付加価値税の負担者とならないよう控除を認めている[74]。同条文は次のように規定する。

“In addition to the deduction referred to in Article 168, the taxable person shall be entitled to deduct the VAT referred to therein in so far as the goods and services are used for the purposes of the following:
(b) transactions which are exempt pursuant to … Articles 146 to 149 …”

すなわち、前段階税の控除は原則として VAT 指令168条に基づき行われるが、同条に加えて、146条など輸出関連取引に掲げられた免税取引等に対応する仕入れについては169条に基づき前段階税控除が認められる[75]

また、あくまでCJEUの本判決は、VAT指令168条に基づく控除要件の統一的解釈を示したにすぎず、同指令169条については一切言及されていない。

以上を踏まえれば、Weindel社の事例においても、EU域外である第三国に輸出される資産に係るスイス顧客への役務提供に対応する貨物の引取りに課された輸入付加価値税については、VAT指令169条により前段階税額控除の対象となるべきものと解するのが自然である。これを否定する批判があるとすれば、たとえ同指令169条の適用対象であっても、輸入付加価値税については同指令168条の要件を充足しない限り控除を認めるべきではないとする批判であろう。しかし、そのような解釈を正当化する明確な根拠は判例及び学説のいずれにおいても確認できず、再輸出される貨物については同指令169条に基づく前段階税控除が認められるべきであるとの理解が妥当であると考える。

もっとも、判決文等から読み取れる事案の概要には情報量の限界があり、Weindel社が実際に第三国向け輸出分についてどのような控除申告を行っていたのかは必ずしも明らかではない 。判決文の記述によれば、VAT指令168条に対応する国内法に基づき輸入付加価値税の前段階税控除を申告していた旨のみが記載されている。このことから推測すれば、同社はEU域内への供給分のみならず、第三国向け輸出分についても168条により税額控除を申告し、その結果、スロバキア税務当局により否認の更正処分を受けたように見受けられる。貨物について再輸出免税取引分とその他の供給分とを明確に区分する管理が十分でなく、包括的に168条を根拠として控除を試みた可能性もある。或いは、第三国向け輸出分についてはVAT指令169条に基づく輸出免税取引による前段階税控除を申告し、そこは争点とならなかったという可能性も考えられるが、これらの点については入手可能な情報からは推測の域を出ず、確定的な判断はできない。

ただし理論的には、VAT指令169条の輸出免税取引に該当するにもかかわらず、仮にWeindel社が同指令168条に基づく控除申告を行ったことを理由に第三国向け輸出分に係る前段階税控除迄も否認されたとすれば、その結果、本来税抜きの状態で輸出されるはずの製品価格にEU付加価値税が内包されることになり、仕向地課税主義の原則に反することになりかねない。

第4節         小括

 本章において確認したEUの付加価値税制度及び判例によれば、「誰が輸入申告名義人となるか」と「誰が輸入付加価値税の税額控除ができる者であるか」が明確に区別されて取り扱われている点は注目に値する。そのうえで、輸入付加価値税の税額控除ができる事業者の実体的要件について、日本では必ずしも十分に議論されてこなかった詳細な検討が進められていることを確認した。

まず、控除主体に求められる実体的要件として、従前より、「直接的かつ即時の関連性」が重視されている。Weindel判決においては、「前段階の輸入コスト(取得費用)が存在しないか、又はそれらのコストが後段階の特定の取引価格若しくは課税事業者がその経済活動において提供する財貨やサービス価格に組み込まれてていない場合」には、VAT指令168条の輸入付加価値税控除権が否定されるとの判断が示され、直接かつ即時の関連性の具体化が図られた。

さらに、もう1つの実体的要件として、「所有者としての輸入貨物の処分権」が位置付けられた。この点は、2011年のVAT委員会ガイドラインに明示されて以降、DSV Road判決及びWeindel判決においても重視されており、近時の判例の動向として注目すべき点である。

次章では、以上のようなEUにおける議論を踏まえ、我が国消法30条1項の輸入消費税の仕入税額控除に関して、いかなる事業者がその控除主体となり得るかについて、法解釈上の検討を行う。もっとも、EUにおける判例や制度が必ずしもすべて妥当であって、我が国の法制度にそのまま転用できるわけではない点には留意を要する。実際、EU判例において示された控除権の要件については、学説上「過度に厳格である」との批判も確認された。そこで、EUの要件を適用することによって具体的にどういった場面で支障を来し得るのか、また逆に、どのような場合において課税の公平性の観点等から改善が見込まれるかを多角的に分析する。そのうえで、我が国の輸入消費税の仕入税額控除ができ得る事業者像をどのように捉えるべきか、その法解釈の在り方を考察していきたい。

第4章 輸入消費税の仕入税額控除を認めるべき事業者の考察

本章では、これまで確認してきた関連規定、日本の裁判例、EU判例、さらにそれらを取り巻く学説等を踏まえ、消法30条1項における輸入消費税の仕入税額控除がどの範囲の事業者に認められるべきかについて検討する。

第1節  形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキーム事例を通じた検討

 本研究論文の副題「国外事業者による有形資産の国内販売に伴う形式的な輸入申告名義人の取扱いをめぐって」が示すとおり、筆者が本研究に着手するきっかけとなった国外事業者による「形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキーム」を利用する租税回避的な行為事例をケース・スタディの題材として、仕入税額控除を認めるべき事業者について考察することとする。

1.    形式的輸入名義人の性質

事例として取り上げた「形式的輸入名義人を介した輸入消費税還付スキーム」の取引関係図(参考3)を以下に再掲する。

当該スキームにおける形式的輸入名義人の性質は、次のとおり整理できる。

  • 業務範囲: 形式的輸入名義人の役割は、国内で貨物を販売する国外事業者の指示に基づき、輸入名義人としての輸入手続、消費税のハンドリング(納付及び還付手続等)、輸入後の貨物受領及び一時的保管[76]、Amazon倉庫への納品といったものである。当該名義人が国外事業者から得る対価は、これら業務に係る手数料のみであり、貨物の販売活動には関与しない。
  • 輸入申告名義人としての形式的地位: 輸入手続上、国外事業者に代わって名目的に輸入申告名義人となり、自らの名義で輸入申告及び輸入消費税の申告を行い、輸入消費税を納付する。
  • 仕入税額控除及び帳簿保存義務履行: 形式的輸入名義人は課税事業者であり、自身の消費税申告において輸入消費税額について仕入税額控除を行う。自身の名が輸入者として記載された輸入許可書を保管し、帳簿及び請求書等の保存義務については適切に履行している。
  • 所有権及び処分権: 形式的輸入名義人は貨物の所有権及び処分権を有していない。貨物の所有権及び処分権は、国内において消費者に販売されるまでの間、一貫して国外事業者に帰属する。
  • 輸入関連費用: 形式的輸入名義人は国外事業者から貨物を購入しておらず、輸入貨物に係る仕入費用、運送費、通関費用その他の輸入関連費用を負担していない。これらの費用はすべて国外事業者が負担している。

2.  形式的輸入名義人の国外事業者への役務提供の輸出免税の適否

非居住者に対する役務提供は一般的には輸出免税の規定が適用され、消費税が免除される(消法7条)。しかし、非居住者に対する役務の提供であっても、次に掲げるものは消費税が免除されない(消法施行令17条2項7号)。

  • 国内に所在する資産の運送や保管
  • 国内における飲食または宿泊
  • (1)および(2)に準ずるもので、国内において直接便益を受けるもの

このうち(3)に該当するかどうかは、(1)又は(2)に準ずるものであるかどうかと、国内で直接便益を享受するものであるかどうかの判断を要することになる。特に、国内直接便益の享受の判断については、役務の提供に係る便益が国内で直接的に享受するものであることが重要となる[77]

これを前提として形式的輸入名義人が国外事業者に対して行う一連の役務をみると、輸入後の貨物の一時保管及びAmazon倉庫への国内配送は、国内だけで便益の享受があり、上記(1)に該当するため、消費税が免除されないこととなる。なお、国内配送であっても、それが「国際輸送として行う貨物の輸送の一環」と認められる場合には免税対象として取り扱って差し支えない(消基通7-2-5)。しかし、形式的輸入名義人のケースにおいては、国際輸送便について自らを荷受人として貨物を受取り、その時点で国際輸送のプロセスが完了している。Amazon倉庫への配送は、当該貨物を受領した後に形式的輸入名義人が行う国内配送であり、国際輸送の一環としての性質を有しないと評価するのが適当である。

一方、輸入名義人としての輸入手続や消費税関連の事務処理については、国内に所在する資産に係る役務の提供とも国内で直接便益を享受するものとも評価できず、これらの役務は、輸出免税の適用を受けられるものと考えられる。

3.    平成20年東京地裁判決を踏まえた検討

平成20年東京地裁判決は、保税地域からの引取りに係る消費税の仕入税額控除について、「原則として、課税事業者が自ら輸入段階で納付した税額を控除する仕組みであることを念頭に置いたものであると解すべき」と判示している。この点に照らすと、形式的輸入名義人は、課税事業者であり、自らの名義で輸入申告及び輸入消費税の申告を行い、輸入消費税を納付している以上、外形的には「控除できる事業者」と評価し得るようにも見える。

もっとも、同判決及び学説により、「輸入申告名義人のみが控除権限を有する」と機械的に適用する趣旨ではないということを確認した。

  • 仕入税額控除の趣旨に基づく検討

同判決では、仕入税額控除制度の本来的趣旨を、「仕入れの際に自ら負担した税額を控除することを予定する制度」と位置付けている。形式的輸入名義人は、表面的には「引取りの際に自ら納付した税額」を控除していることにはなるのだが、その納税は、還付を受けることを前提とした一時的な支払にすぎない。ここで、還付を前提とした一時的な支払という点では、実際に本邦から貨物を輸出する課税事業者が、その輸出免税取引に伴い国内で支払った消費税について仕入税額控除(還付)を受ける場合があるが、これは仕向地課税主義の原則に照らすと問題がない。すなわち、貨物の輸出に際しては、その仕入価額に含まれていた付加価値税相当額が還付され、その物品はいわば税抜きで輸出され、輸入国側でその国の付加価値税が課されることを前提とすることで、当該物品はその輸入国の国内産品と同じ条件で競争することが可能となり、国際的競争中立性が確保されるためである[78]

これに対し、形式的輸入名義人のケースでは、たしかに国外事業者に対する一定の役務提供が輸出免税の対象となり得つつも、輸入貨物自体は再輸出されるわけではなく、最終消費地国である日本国内において販売されることを予定しているものであり、その引取りに係る消費税であるのにかかわらず、還付を予定した一時的な輸入消費税の納付となっている。形式的輸入名義人自身は、輸入貨物を購入しているわけでも、輸入後において貨物を販売しているわけでもなく、これらの経済活動は国外事業者が行っている。

この結果、国外事業者が国内で販売する物品には輸入消費税が転嫁されていない一方、これと競合する国内産品には前段階税が取引価格に含まれているから、両社の間で競争条件が対等に保たれない状況が生じ得る。

具体的には、既に序論における「問題の所在の整理」で指摘したとおり、免税事業者である国外事業者と、形式的輸入名義人を利用しない一般の免税事業者である国内事業者との間には、税負担の差異が生ずる点が挙げられる。また、消費税の申告をする課税事業者同士であっても、最終的な税負担額そのものに差異は生じないとしても、形式的輸入名義人を利用することにより、輸入消費税の納付から還付手続きまでのハンドリングを委ねることで、国外事業者は輸入消費税の納付を要せず、事後的な税務署への納付のみで足りることとなるから、国外事業者は国内事業者に比してキャッシュフロー上の優位性を享受し得ることとなる。

付加価値税の中立性の原則によれば、消費税は事業者の経済活動に対して中立的に機能することが求められる。特に国際商取引の文脈において、国外事業者が国内事業者に比べて有利又は不利に取り扱われる場合、国内市場における経済活動を歪めることになる。この中立性の要請は、必ずしも税負担額の多寡に限定されるものではなく、例えばコンプライアンス義務の履行負担といった要素を含めた実質的な経済的影響の観点から評価されるべきである[79]。したがって、形式的輸入名義人の利用によって生じるキャッシュフロー上の有利・不利の差異についても、付加価値税の中立性原則との関係で問題となり得ると考える。

以上のような実態を踏まえると、輸入消費税について名義上は輸入申告者として納付をしたからといって、それを「仕入れの際に自ら負担した税額」と位置付けて仕入税額控除を容認することは、制度趣旨との整合性の観点からも、より慎重な検討が必要であると考えられる。

  • 消法13条に基づく実質判定に基づく検討

佐藤は、消法13条に基づく実質判定を用い、担税力の帰属という観点から誰が課税貨物を「引き取る者」に該当するかを評価すべきであるとの見解であった。そこで引用された横浜地裁の判旨によれば、物を課税物件として課される租税であれば、法律上の所有権が帰属していることをもって担税力が推定され、課税されるのであり、課税物件が単に形式的に帰属するのみでは担税力があるとはいえず、実質的に権利又は法律効果が帰属して初めて担税力が推定され、この者を納税義務者として課税すべきである、とされている[80]。この判旨を踏まえれば、輸入から国内販売に至るまで一貫して課税貨物の所有権を有し、その経済的成果及びリスクが帰属する国外事業者にこそ担税力があると考えるのが自然である。したがって、当該国外事業者を納税義務者と位置付けるのが相当であって、単に輸入申告名義を有するにすぎない形式的輸入名義人については、真の納税義務者又は課税貨物を「引き取る者」として評価することは困難であるといえる。

4.    EU判例を踏まえた検討

EU判例も参考材料として考察を深めてみたい。勿論、EUの判例は我が国に拘束力を及ぼすものではないが、付加価値税の本質的理解を深めるうえで有益である。現に、前述のように、日本の消費税制度もEU付加価値税制度を参考にして設計されている。

さて、CJEUは、Weindel事案において、以下のEU判例上の前段階税控除権否認2要件を満たす場合には、VAT指令168条に基づく輸入付加価値税の控除権を有する者には該当しないと判示した。

  • 輸入者が所有者として輸入貨物の処分権を有していない場合
  • 前段階の輸入コスト(取得費用)が存在しないか、又はそれらのコストが後段階の取引価格若しくは課税事業者がその経済活動において提供する財貨やサービス価格に組み込まれていない場合

この要件を形式的輸入名義人に当てはめると、形式的輸入名義人は、貨物の所有者として輸入貨物の処分権を有しておらず(要件1に該当)、前段階の輸入コスト(取得費用)を負担していない(要件2に該当)ことから、EU判例要件に基づけば税額控除の権利を有しないということになる。

EUにおいて前段階税の控除に関する根拠規定となるVAT指令168条は、「課税事業者は、課税取引の目的で商品及び役務を使用する限りにおいて、(中略)前段階税を控除する権利を有する」と定められている。同条に基づく控除権の成否は、前段階における費用と後段階における課税取引(売上)との間の繋がり(リンクとしての積極的な関連性)次第であるということである[81]

輸入付加価値税の控除可否に関しては、EU判例の経緯でも述べたように、輸入貨物の取得費用が輸入者の経済活動と直接かつ即時の関連性がない場合、当該輸入者は支払った輸入付加価値税について控除権を有さないと解すべきではないか、との議論が長らく行われてきている。

このように、EUにおいては、輸入付加価値税についても、仕入(輸入)という前段階取引と、売上という後段階取引との間の前後関係について直接的な関連性を求められていると理解できる。

 これに照らせば、形式的輸入名義人のケースにおいては、当該名義人が輸入貨物を第三者に販売するわけでも、自ら使用するわけでもなく、そのアウトプットは、非居住者に対する限定的な役務提供の対価にとどまる。そして、その役務対価の構成要素として輸入貨物の取得費用は組み込まれていない。そのため、仕入れ(輸入)という前段階取引と、売上という後段階取引との間の関連性は、極めて希薄であると言わざるを得ない。

 このような場合に、輸入貨物に係る消費税について仕入税額控除を認めることは、付加価値の創出過程と無関係な主体に前段階税控除を認めることにほかならず、付加価値税として本来予定されている課税の連鎖構造を歪めることになる。その結果、仕入(輸入)段階における消費税額のみが過大となり、課税の連鎖過程と整合しないアンバランスな税負担構造が生じることになる。

なお、EU判例要件によれば、輸入する者が輸入貨物の処分権を有していないとしても、少なくとも、その輸入コスト(取得費用)が後段階の経済活動において提供するアウトプット価格の構成要素に組み込まれていれば控除権を認めるとしている 。すなわち、要件(1)は満たさなくても要件(2)を充足することにより、前段階税控除が認められ得る余地があることを意味する。一例として考えられるのは、委託販売のケースである。国外の委託者が貨物の処分権を維持したまま、国内の受託者が輸入し、それを受託者名義により販売を行う場合である。この場合、受託者自身は、輸入付加価値税を除く輸入コストを直接負担していないとしても、委託者の指示に基づき設定される国内販売価格には、輸入コストや受託者が受領するコミッションがその価格構成要素に組み込まれていると評価することができる。もっとも、このような要件を満たす取引形態は多くはないであろうから、EU判例要件は、原則として、輸入者に要件(1)の「所有者としての処分権」を有することを求める趣旨であると言えよう。

5.    「引き取る者」とは誰か - 所有権の移転時期との関係

EU判例要件は、輸入を行う者に対し、所有者としての処分権を有することを求める趣旨であると述べた。日本の輸入消費税に係る仕入税額控除の議論においても、これと関連する先行研究が存在する。

森口・渡邊[82]は、国外事業者(売手)と国内事業者(買手)との間でDDP条件による売買取引が行われる場合における、輸入消費税の仕入税額控除の取扱いについて分析を行っている。

DDP条件は、インコタームズにおける規則の一つであり、「関税込持込渡」とされ、売手が指定仕向地まで物品を運送することに伴う一切の費用及び危険を負担するとともに、輸出のみならず輸入のためにも通関手続を遂行する義務を負うものとされている。その際、輸入通関に関連した税金についても、売手が負担するものとされている[83]

もっとも、インコタームズは、危険の移転や貿易手続・費用負担に関する売手と買手の義務を整理したものであり、それ自体によって所有権の移転時期が定まるものではない。所有権の移転は、あくまで当事者間の契約内容に委ねられる。森口・渡邊は、消費税法30条1項にいう「保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された消費税額」の仕入税額控除との関係で、そもそも「引き取る者」とは誰を指すのかという点について、課税貨物の所有権がいつ移転するかという要素が影響し得ることを指摘している[84]

具体的には、保税地域からの引取り前に、国外の売手から国内の買手へ所有権が移転する場合には、課税貨物を保税地域から引き取る者は買手であるとされる。この場合、たとえDDP条件に基づき売手が実際に輸入消費税の納付を行っていたとしても、保税地域からの引取りに係る消費税額は、国内の買手の仕入税額控除の対象となるとしている。

これに対し、課税貨物の所有権が、買手の国内倉庫に納品された段階で移転する場合など、すなわち、保税地域から引き取られた後に売手から買手へ所有権が移転する場合には、課税貨物を保税地域から引き取る者は国外の売手であると評価される。売手である国外事業者は、原則として税関事務管理人等を選任し、その者を通じて輸入申告及び輸入消費税の申告を行うこととなる。そして、保税地域からの引取りに係る消費税額は、売手の仕入税額控除の対象となる。

このような場合において、税関事務管理人等を通じた申告手続が煩雑であることを理由として、買手を輸入名義人として輸入申告及び輸入消費税の申告を行ったときには、「引き取る者」である売手と、「輸入申告名義人」である買手とが一致しないこととなる。税関事務管理人等を選任すれば、売手自身が輸入申告及び輸入消費税の申告を行うことが可能であることからすれば、このような事案は、消費税法基本通達11-1-6にいう「特別の事情」がある場合には該当しないと評価される。その結果、売手が課税事業者である場合であっても、売手は保税地域からの引取りに係る消費税について仕入税額控除を受けることはできないと、森口・渡邊は指摘している。また、このような場合において、買手が輸入申告名義人であることを理由に、当該消費税額について仕入税額控除を適用できるかという点についても、実質的に「外国貨物を引き取る者に該当しないものとして輸入貨物に係る消費税額の仕入税額控除が否認されるという懸念が生じる[85]」ものとされる[86]

以上の森口・渡邊の指摘を踏まえると、輸入消費税の仕入税額控除の可否を判断するにあたっては、保税地域からの引取り時に、当該課税貨物について所有権を有しているか否かが、重要な要素として位置付けられていることがうかがわれる。そうすると、形式的輸入名義人の事例においては、国外事業者が一貫して所有権を有している以上、「引き取る者」は国外事業者であり、形式的輸入名義人ではないと評価され得る。

6.  検討結果

(1) 形式的輸入名義人による仕入税額控除は認めるべきではない

これまで、平成20年東京地裁判決を踏まえた仕入税額控除の制度趣旨及び消法13条に基づく実質判定に基づく検討、EU判例を踏まえた検討、さらに所有権移転時期からみた分析を行ってきた。その結果、いずれの検討においても、形式的輸入名義人による輸入消費税の仕入税額控除を肯定することは困難であるとの評価に至った。

これらを総合すれば、課税貨物について処分権を有さず、担税力の帰属という観点からみても実質的に保税地域から課税貨物を「引き取る者」に該当しない輸入申告名義人については、輸入消費税の仕入税額控除を認めるべきではないと解するのが相当であると考える。

形式的輸入名義人の仕入税額控除を否認した場合、当該名義人が控除できずに負担することとなる輸入消費税相当額については、形式的輸入名義人から、経済的成果及びリスクが帰属する国外事業者に対してその費用負担を求めることになる。その結果、その負担(輸入消費税)分は国外事業者の販売価格に包含されることになるから、国際的競争中立性の問題点は解消される。

したがって、序論で述べた、免税事業者の国内事業者と形式的輸入名義人を活用した国外事業者との間に生じる税負担の不公平性に関するシナリオについても、次のようにその税負担の差異が改善されることとなる。このように、国外事業者が免税事業者であった場合でも、国内の免税事業者と同程度に競争上有利になることはあっても、現状よりは有利性が抑制される。

国内事業者による輸入販売のケース(免税事業者、申告納付無し)

区分本体価格消費税控除額納付額
輸入時1,000円100円(支払)--
販売時2,000円200円(受取)--
販売できた場合:100円の益税が発生。販売できなかった場合:輸入消費税100円を国内事業者が負担。

国外事業者による形式的輸入名義人を介した輸入販売のケース(免税事業者、申告納付無し)

区分本体価格消費税控除額納付額
輸入時1,000円100円(輸入名義人は控除できないため国外事業者に請求)--
販売時2,000円200円(受取)--
販売できた場合:100円の益税が発生。販売できなかった場合:輸入消費税100円を国外事業者が負担。

(2) スキームを維持したまま国外事業者に仕入税額控除を認めることは困難

国外事業者が課税事業者として消費税の申告納付を行う場合、形式的輸入名義人に輸入消費税の仕入税額控除を認めない取扱いのまま、国外事業者側でも控除が認められないとなると、それはそれで、国内の課税事業者と比較して国外事業者の競争条件が著しく不利なものとなってしまう。

平成20年東京地裁判決を振り返れば、消法30条1項の輸入消費税の仕入税額控除を行い得る事業者の範囲について、原則的には輸入申告名義人と解しつつも、仕入税額控除の制度趣旨「仕入れの際に自ら負担した税額を控除することを予定する制度」に照らし、輸入申告名義人に限定されない柔軟な解釈の余地も残されていることを確認した。また、担税力の帰属という観点からみても、実質課税の原則に照らしてみても実質的に保税地域から課税貨物を「引き取る者」は国外事業者となるわけなので、国外事業者に仕入税額控除を認める余地が法解釈上あり得ると考えられる。

しかしながら、本件のように輸入許可書には形式的輸入名義人の「事業者の氏名又は名称」が記載されている場合、消法30条7項ただし書きにいう「やむを得ない事情」が認められることが、仕入税額控除適用の前提となる。もっとも、筆者は、本ケースにおいては「やむを得ない事情」に該当すると評価することはできないと考える。なぜなら、国外事業者は、税関事務管理人等を選任することにより、自ら輸入申告名義人となり、輸入消費税を申告・納付し、その「事業者の氏名又は名称」を輸入許可書に記載させることが制度上可能であるからである。この方法は、現行制度の枠内で採り得る標準的な解決手段であり、当該手段が存在するにもかかわらず、あえて形式的輸入名義人を利用する場合に、「やむを得ない事情」が認められる余地は乏しいといわざるを得ない。

したがって、現段階では、輸入態様等に即して個別の事案ごとに検討せざるを得ないのが実情である。

もっとも、筆者としては、「やむを得ない事情」とは、その文言から、納税者の側において現行制度の枠内で他に手段を採ることが客観的に困難である場合を指すものと解するのが相当であると考える。本稿の序論で言及した事例にかかる具体的なケース・スタディについては第4章で詳述するが、ここでの検討を踏まえれば、非居住者である国外事業者が実質判定により実質的な課税主体と認められる場合であっても、その者が、税関事務管理人等の選任により、自ら輸入申告名義人となることが制度上可能であるにもかかわらず、管理コストの軽減や事務負担の回避といった理由によって、あえて第三者を輸入申告名義人としている場合などは、「やむを得ない事情」があるとは評価し難いというべきだと考える。

[作成途上・・・]


[1] 消費税法基本通達1-6-1(国外事業者の範囲)国外事業者とは、所得税法上の非居住者に該当する個人事業者及び法人税法上の外国法人を指す

[2] 財務省関税局「輸入申告項目・税関事務管理人制度の見直しについて」〈https://www.customs.go.jp/shiryo/leaflet_jimukanrinin.pdf〉(2025年12月23日閲覧)

[3] 関税法67条、67条の2、消法5条2項、47条1項及び50条

[4] 関税法95条1項、国税通則法117条1項

[5] 国税通則法117条1項

[6] 上杉秀文『国際取引の消費税QA(8訂版)』39頁(税務研究会出版局, 2023)

[7] 関税法基本通達6-1

[8] 「形式的輸入名義人」は、参考3に示す事例のように、国外事業者の指示のもと国外事業者に代わって名目的に輸入申告者となる者をいい、輸入貨物について所有権や処分権を有していないのが通例である。

[9] 自由民主党・日本維新の会「令和8年度税制改正大綱」(令和7年12月19日公表)

[10] 宮川博行「非居住者の消費税の納税義務に関する一考察」税大論叢70 号 313 頁(2011)

[11] 金子宏『租税法』 820頁(弘文堂,第 24 版,2024)

[12] 溝口史子「世界標準の消費税、輸入消費税という生命線」税務弘報2023.11, 140頁(2023)

[13] 岡村忠生「仕向地基準課税再考」第69回租税研究大会記録 74頁(日本租税研究協会, 2017)

[14] 前掲金子 823頁

[15] 前掲金子 820頁

[16] 前掲上杉 30頁

[17] 国税庁「税務大学校講本 消費税法(令和7年度版)」2024

[18] 前掲金子 813頁

[19] 前掲金子 806頁

[20] 野田秀樹「実質的輸入者と輸入申告名義人に係る輸入消費税の取扱い」国税速報第6632号 45頁(2020)

[21] 図子善信「速報判例解説(東京地方裁判所平成20年2月20日判決)」LEX/DB文献番号25463213、251頁(2010)

[22] 末安直貴編『消費税法基本通達逐条解説』601頁(大蔵財務協会, 2024年)

[23] 前掲上杉 46頁

[24] 前掲宮川・同文献 317頁

[25] 福家俊郎 判例時報 1385号 平成3年8月1日号

[26] 東京税関業務部へのメール照会による回答(2025年10月17日取得)

[27] 東京地裁平成20年2月20日税資258号順号10897

[28] 最高裁昭和46年3月30日判決・刑集25巻2号359頁

[29] 金井恵美子 「輸入消費税の仕入税額控除」 月刊税務事例 Vol.43 2011年4月

[30] 前掲図子・同文献 251頁

[31] 前掲図子・同文献、251頁

[32] 大阪高等裁判所平成16年9月29日判決 税務訴訟資料254号順号9760

[33] 佐藤孝一 租税判例研究 輸入消費税の申告者にも、実質的輸入者にも当たらないとして、仕入税額控除をすることはできないとした事例「月刊税務事例」45巻7号7頁(2013年)

[34] 末安直貴編『消費税法基本通達逐条解説』167頁(大蔵財務協会, 2024年)

[35] 前掲佐藤・同文献 6頁

[36] 前掲金子 182頁

[37] 横浜地裁平成13年10月10日判決 税務訴訟資料251号順号8999

[38] 東京地裁平成10年3月25日判決 税務訴訟資料231号341頁

[39] 前掲佐藤・同文献 6頁

[40] 津地方裁判所令和2年10月1日判決 税務訴訟資料270号順号13457

[41] 前掲佐藤・同文献 6頁

[42] 大場誠一 「税研究賞受賞論文から 輸入消費税の税務上の取扱いについて:DDPの貨物に係る輸入消費税を中心に」税研2025年5月 118頁

[43] 国税不服審判所平成18年6月14日裁決 支部名関信 関裁(諸)平17第61号

[44] 鈴木将覚「消費税の設計シリーズ⑩ インボイスの重要性」みずほインサイト2015年11月13日、1頁(2015)

[45] 前掲金子 806頁

[46] 藤原健太郎「EU における付加価値税の課税権配分についての覚書」『ファイナンシャル・レビュー』(財務省財務総合製作研究所)第156号、71頁(2024)

[47] 前掲金子 806頁

[48] 林口侑生「EU税制と税務行政協力の概要」税大ジャーナル2025年6月号 9頁(2025)

[49] 前掲林口・同文献、9頁

[50] 前掲林口・同文献、6頁

[51] 溝口史子『EU付加価値税の実務』7頁(中央経済社, 2017)

[52] 前掲林口・同文献、7

[53] 前掲林口・同文献、10頁

[54] 溝口・前掲書 135頁

[55] 溝口・前掲書 136頁

[56] 溝口・前掲書 136頁

[57] 溝口・前掲書 164頁

[58] 溝口・前掲書 11頁

[59] VAT Guideline, Resulting From the 94th Meeting of 19th October 2011, Document C – taxud.c.1(2012)243615-716.

[60] 前掲林口・同文献、6頁

[61] 溝口・前掲書 7頁

[62] 本件は受託加工貿易に類する取引であり、当該輸入貨物の取得に係る運送費その他の諸費用は、スイス側顧客が手配・負担していたものと見受けられる。

[63] 課税事業者は、次の各号に該当する場合に限り、第49条に基づく税額控除の権利を主張することができる。

[...]

(d) 第49条第2項(d)に基づく控除のため、税関当局により確認された輸入書類を保有し、当該書類において当該課税事業者が荷受人又は輸入者として指定されている場合。

[64] 課税事業者は、その課税事業者としての地位において、その供給する貨物又は提供するサービスのために使用する貨物又はサービスに係る税額を、第3項及び第7項に定める例外を除き、その納付すべき税額から控除することができる。

[65] Order of the Court (Eighth Chamber), 8 October 2020,

Finančné riaditeľstvo Slovenskej republiky v Weindel Logistik Service SR spol. s r.o.,

Request for a preliminary ruling from the Najvyšší súd Slovenskej republiky,

Case C-621/19.

[66] 石村耕治「EU付加価値税における事業者の仕入税額控除権の分析」日本租税理論学会研究大会、2024年10月19日・20日

[67] Prof. Madeleine Merkx (Erasmus University Rotterdam, Netherland), International VAT Monitor, Vol. 35, No. 3 (2024), pp. 121–130.

[68] Prof. Dr. Thomas Bieber (Johannes Kepler University Linz, Austria), et al., International VAT Monitor, Vol. 33, No. 2 (2022), pp. 75–80.

[69] 溝口・前掲書 246頁

[70] 溝口・前掲書 48頁

[71] Umsatzsteuer-Anwendungserlass 15.8(4)8

[72] Umsatzsteuer-Anwendungserlass 15.8(4)9

[73] 溝口史子「世界標準の消費税、輸入消費税という生命線」税務弘報2023.11, 141頁(2023)

[74] 前掲林口・同文献、12頁

[75] 溝口・前掲書 165頁

[76] 輸入申告名義人が一旦自らの倉庫で貨物を引き取った後にAmazon倉庫へ納品しているのは、関税法上、原則として「輸入者=荷受人」とされる制度設計に対応するためである。

[77] 前掲上杉 488頁

[78] 前掲金子 806頁

[79] 溝口・前掲書 229頁

[80] 横浜地裁平成13年10月10日判決 法人税更正処分等取消請求事件 文献番号 28072012

[81] 占部裕典「消費税法の枠組みの法理論的検討と課題」税法学586号, 125頁(2021)

[82] 国際税務分科会編『詳解 国際税務 NEWケース・スタディ』(2025年)Case44「DDP条件で輸入する場合における輸入消費税の仕入税額控除」(監修:森口直樹、執筆:渡邊利明)

[83] インコタームズ2020規則(国際商業会議所日本委員会)182頁

[84] 前掲 森口・渡邊

[85] 前掲上杉 40頁

[86] 前掲 森口・渡邊