関税評価とは、関税の課税標準となるべき輸入申告価格(課税価格)を決定することをいいます。
輸入貨物のほとんどが従価税品と言い、輸入申告価格に関税率を乗じて関税を算出します。この輸入申告価格は、輸入者が自らの責任で算出して適正な申告を行う必要があります。輸入申告価格(課税価格)は、以下の流れにより決定します。
※本記事はあくまで大まかに流れを理解するために示すものであり、厳密には関税定率法の観点から補足が必要であることをご了解ください。
輸入者と輸出者の間に売買取引が存在する | YES → | [1] 原則的な課税価格の決定方法 |
NO ↓ | ||
輸入貨物と同種又は類似の条件を満たした貨物を輸入した | YES → | [2] 同種又は類似の貨物の取引価格を利用する方法 |
NO ↓ | ||
国内販売価格、国内で発生する費用が明確である | YES → | [3] 日本国内での販売価格から逆算する方法 |
NO ↓ | ↕ [3] と [4] は選択可能 | |
輸出者がメーカーであり製造原価などの根拠が提示可能 | YES → | [4] 製造原価を利用する方法 |
NO ↓ | ||
[5] その他の方法 |
[1] 原則的な課税価格の決定方法
基本的には輸入取引※1による輸入の場合、原則的な課税価格の決定方法を用いることができます。
※1:日本に拠点を有する者が、買手として貨物を本邦に到着させることを目的として売手との間で行った売買であって、現実に当該貨物が本邦に到着することとなった取引
原則的な決定方法では、輸入貨物の取引価格を用います。
輸入申告価格(課税価格) = 取引価格 = 現実支払価格※2 + 加算要素※3
※2:輸入取引に関し、買手により売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格
※3:当該輸入貨物の輸入港までの運賃等(運賃、保険料、仲介手数料等)
貨物の輸入に関して売買取引が存在しない場合や、無償で輸入される場合には輸入取引には該当せず、原則的な決定方法を用いることができません。
例えば日本に拠点を有さない海外法人が第三者から購入した品物を日本に輸入する場合などは、当該購入価格で申告することは適切でないでしょう(日本に拠点を有する者が買手として輸入していないため)。
そのような場合には、以下に掲げる[2]~[5]の方法を用いて課税価格を決定していきます。
[2] 同種又は類似の貨物の取引価格を利用する方法
(1)概要
同種又は類似の貨物として、以下の条件全てに当てはまるものが存在する場合にはこの方法を用いることができます。ただし、同種又は類似の商品として利用できるケースは、実務上はあまり多くありません。
同種の貨物の定義
- 輸入貨物との輸出の日の前後1月以内に輸出されたもの
- 輸入貨物と同じ生産国で生産されたもの
- 形状、品質及び社会的評価を含むすべての点で輸入貨物と同一であること
類似の貨物の定義
- 上記同種の貨物の定義の1.2.を満たすもの
- 輸入貨物と全ての点で同一ではないが、同様の形状及び材質の貨物であって当該輸入貨物と同一の機能を有し、かつ、当該輸入貨物との商業上の交換が可能なもの
以上の条件を満たす場合には、同種又は類似の貨物の取引価格に基づき評価を行い、輸入貨物の輸入申告価格とすることができます。
(2)準備しておくべき資料
- 上記定義に当てはまることを証明できるもの(同一性、類似性を客観的に示すことができる仕様書、写真等)
- 参照する貨物の通関関係書類(インボイス、輸入許可書等)
[3] 日本国内での販売価格から逆算する方法
(1)概要
同種又は類似貨物の輸入実績がない場合には、[3] 輸入貨物の国内販売価格 又は [4] 輸入貨物の製造原価を用いて評価を試みることになりますが、輸入者の要請がある場合には、[4] 製造原価による方法を優先することもできます。
さて、[3] 国内販売価格から逆算する方法とは、輸入貨物そのものの日本国内での販売価格、或いは輸入貨物と同種類似の貨物の日本国内での販売価格から、一定の国内費用を差し引いて算出する計算方式です。
輸入申告価格(課税価格) = 国内販売価格※4 - (同類の輸入貨物の国内販売に関わる通常の手数料又は利潤及び一般経費 + 輸入港到着後の運送費用等 + 関税その他の公課)
※4:輸入貨物そのものの販売価格、又は輸入貨物と同種又は類似の貨物で、輸入申告の日の前後概ね1月以内に国内販売された価格を用いる(ただし、親子会社等の特殊関係の無い買手に対して販売したものに限る)。
(2)準備しておくべき資料
- 国内販売価格の証憑書類(顧客からの注文書等)
- 国内費用のエビデンス(運送会社からの請求書、納税額を確認できるもの等)
[4] 製造原価を利用する方法
(1)概要
輸入貨物の製造原価を確認することができるときに用いることができます。輸入者と輸入貨物の生産者との間の直接取引に基づき当該貨物が日本に到着する場合に限ります。
ただし実務上、この方法が適用されることはほぼありません。
輸入申告価格(課税価格) = 輸入貨物の製造原価 + (生産国を同じくする同類の輸入貨物の本邦への輸出のための販売に関わる通常の利潤及び一般経費 + 当該輸入貨物の輸入港までの運賃等)
(2)準備しておくべき資料
- 製造原価の証憑書類(生産者の会計帳簿)
- 加算した費用のエビデンス(請求書等)
[5] その他の方法
(1)概要
上述の計算方法によって課税価格を計算することができない場合に用います。これまでに述べた課税価格の決定方法を弾力的に応用するものですが、実務上ではよく利用しています。
関税定率法基本通達には、以下のような方法が掲げられています。
(1)法第4条に規定する方法を弾力的に適用して課税価格を計算する方法
(2)法第4条の2(同種・類似)に規定する方法を弾力的に適用して課税価格を計算する方法
(3)法第4条の3第1項(国内販売価格)に規定する方法を弾力的に適用して課税価格を計算する方法
(4)その他弾力的決定方法
最後に
本記事は、関税評価を大まかに理解いただくために記載したものであり、法律用語を敢えて噛み砕いて書いておりますのでご了承下さい。
詳細な関税評価の内容は、以下の名古屋税関が発行している「関税評価の基礎」が参考になります。
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