はじめに

関税・輸入消費税の算出基礎となる輸入貨物の課税価格は、輸入通関時及び税関事後調査において常に問題となる最重要論点です。課税価格の決定方法に係る法令の仕組みを適切に把握することで、過大な関税・消費税の支払又は過少申告を回避することができるようになります。輸入コスト及びコンプライアンスの両面の観点から、関税評価を適正にマネジメントすることは極めて重要な取り組みと言えます。  

 

関税評価制度とは

輸入貨物に関税が課される場合、その価格に応じて課税される従価税品などの課税標準となるべき金額を決定することを「関税評価」といいます。関税評価制度を定めた国際条約は、「1994年の関税及び貿易に関する一般協定第7条の実施に関する協定」であり、通称「WTO関税評価協定」と呼ばれています。日本の関税評価制度も、この評価協定に準拠し、国内法である関税定率法において規定がされています。

 

 

WTO関税評価協定

関税評価協定では、課税価格を決定する上での基礎となる重要な以下の3つの要素が掲げられており、日本の関税評価制度の前提ともなっています。

  • 可能な限り、実際の取引価額が用いられること
  • 完全な競争条件の下での通常の商取引であること
  • 実際の取引価額を決定できない場合であっても、恣意的又は架空の課税価額の使用は禁止され、完全な競争条件の下での通常の商取引において販売され又は販売に提供される価額に近似した価額を用いること

課税価格決定に関するWTO関税評価協定と日本の関税定率法の構成比較は以下のとおりです。このように基本的構成は準拠しつつ各国において一部独自の規定が設けられています。

WTO関税評価協定 関税定率法(日本)
第1条 取引価額による課税価格の決定 第4条 課税価格の決定における原則的扱い
第2条 同種貨物の取引価額の適用 第4条の2 同種又は類似貨物に係る取引価格による課税価格の決定
第3条 類似貨物の取引価額の適用
第4条 課税価格決定方式の選択権 第4条の3第3項 輸入者の要請による製造原価に基づく課税価格の決定方法の優先
第5条 同種又は類似貨物の国内販売価格からの逆算 第4条の3第1項 国内販売価格に基づく課税価格の決定
第6条 製造原価からの積算 第4条の3第2項 製造原価に基づく課税価格の決定
第7条 一般協定第7条及び協定の原則に従った計算方式 第4条の4 上記いずれの方法によっても課税価格を決定することができない場合の決定
第8条 加算要素 第4条第1項各号 加算要素
第9条 通貨換算のための為替換算率 第4条の7 価格の換算に用いる外国為替相場
 

第4条の5 変質又は損傷に係る輸入貨物の課税価格の決定

第4条の6第1項 航空運賃特例

第4条の6第2項 個人的使用物品の特例

第4条の8 課税価格の計算に用いる資料等

第4条の9 政令への委任

参照:WTO関税評価協定関税定率法(日本)

 

WCO関税評価技術委員会(TCCV)

WTO関税評価協定18条2項によりWCOに設置された技術委員会で、WTO評価協定に関する技術的事項について議論されています。ここで特定の技術的事項の検討及び問題の適切な解決に向けた勧告的意見が述べられたり、関税評価に関する問題について情報及び助言が提供されたりしています。その結果は、以下のような採択文書として公開され、私たちもその情報を確認することが可能です。

WCO意見:技術委員会が採択した勧告的意見 (Advisory Opinion)

WCO解説:技術委員会が採択した解説 (Commentaries)

WCO説明:技術委員会が採択した説明ノート (Explanatory Notes)

WCO事例:技術委員会が採択した事例研究 (Case Studies)

WCO研究:技術委員会が採択した研究 (Studies)

これら採択文書は、WTO関税評価協定の解釈及び適用の統一を達成するための指針(参考文書)でしかなく、各国の国内法に落とし込まれない限り、各国において法的効力を有するものではありません。

 

 

 

日本の関税評価 – 関税定率法に基づく輸入申告価格の決定方法

日本輸入時に課税価格決定において根拠とすべきは(WTO関税評価協定を準拠した)関税定率法ということになります。  

輸入貨物のほとんどが従価税品と言い、輸入申告価格に関税率を乗じて関税を算出します。この輸入申告価格は、輸入者が自らの責任で算出して適正な申告を行う必要があります。

輸入申告価格(課税価格)は、以下の流れにより決定します。

※本記事はあくまで大まかに流れを理解するために示すものであり、厳密には関税定率法の観点から補足が必要であることをご了解ください。  

輸入者と輸出者の間に売買取引が存在する YES → [1] 原則的な課税価格の決定方法
  NO ↓    
輸入貨物と同種又は類似の条件を満たした貨物を輸入した YES → [2] 同種又は類似の貨物の取引価格を利用する方法
  NO ↓    
国内販売価格、国内で発生する費用が明確である YES → [3] 日本国内での販売価格から逆算する方法
  NO ↓     ↕  [3] と [4] は選択可能
輸出者がメーカーであり製造原価などの根拠が提示可能 YES → [4] 製造原価を利用する方法
  NO ↓    
[5] その他の方法

 

[1] 原則的な課税価格の決定方法

基本的には輸入取引※1による輸入の場合、原則的な課税価格の決定方法を用いることができます。

※1:日本に拠点を有する者が、買手として貨物を本邦に到着させることを目的として売手との間で行った売買であって、現実に当該貨物が本邦に到着することとなった取引 原則的な決定方法では、輸入貨物の取引価格を用います。

輸入申告価格(課税価格) = 取引価格 = 現実支払価格※2 + 加算要素※3

※2:輸入取引に関し、買手により売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格

※3:当該輸入貨物の輸入港までの運賃等(運賃、保険料、仲介手数料等)

貨物の輸入に関して売買取引が存在しない場合や、無償で輸入される場合には輸入取引には該当せず、原則的な決定方法を用いることができません。その場合には、以下に掲げる[2]~[5]の方法を用いて課税価格を決定していきます。  

 

 

[2] 同種又は類似の貨物の取引価格を利用する方法

(1)概要

同種又は類似の貨物として、以下の条件全てに当てはまるものが存在する場合にはこの方法を用いることができます。ただし、同種又は類似の商品として利用できるケースは、実務上はあまり多くありません。

同種の貨物の定義

  1. 輸入貨物との輸出の日の前後1月以内に輸出されたもの
  2. 輸入貨物と同じ生産国で生産されたもの
  3. 形状、品質及び社会的評価を含むすべての点で輸入貨物と同一であること

類似の貨物の定義

  1. 上記同種の貨物の定義の1.2.を満たすもの
  2. 輸入貨物と全ての点で同一ではないが、同様の形状及び材質の貨物であって当該輸入貨物と同一の機能を有し、かつ、当該輸入貨物との商業上の交換が可能なもの

以上の条件を満たす場合には、同種又は類似の貨物の取引価格に基づき評価を行い、輸入貨物の輸入申告価格とすることができます。  

(2)準備しておくべき資料

  • 上記定義に当てはまることを証明できるもの(同一性、類似性を客観的に示すことができる仕様書、写真等)
  • 参照する貨物の通関関係書類(インボイス、輸入許可書等)

 

[3] 日本国内での販売価格から逆算する方法

(1)概要

同種又は類似貨物の輸入実績がない場合には、[3] 輸入貨物の国内販売価格 又は [4] 輸入貨物の製造原価を用いて評価を試みることになりますが、輸入者の要請がある場合には、[4] 製造原価による方法を優先することもできます。

さて、[3] 国内販売価格から逆算する方法とは、輸入貨物そのものの日本国内での販売価格、或いは輸入貨物と同種類似の貨物の日本国内での販売価格から、一定の国内費用を差し引いて算出する計算方式です。

輸入申告価格(課税価格) = 国内販売価格※4 - (同類の輸入貨物の国内販売に関わる通常の手数料又は利潤及び一般経費 + 輸入港到着後の運送費用等 + 関税その他の公課)

※4:輸入貨物そのものの販売価格、又は輸入貨物と同種又は類似の貨物で、輸入申告の日の前後概ね1月以内に国内販売された価格を用いる(ただし、親子会社等の特殊関係の無い買手に対して販売したものに限る)。  

(2)準備しておくべき資料

  • 国内販売価格の証憑書類
  • 国内費用のエビデンス(運送会社からの請求書、納税額を確認できるもの等)

 

 

[4] 製造原価を利用する方法

(1)概要

輸入貨物の製造原価を確認することができるときに用いることができます。 ただし、輸入者と輸入貨物の生産者との間の直接取引に基づき、当該貨物が日本に到着する場合に限ります。

輸入申告価格(課税価格) = 輸入貨物の製造原価 + (生産国を同じくする同類の輸入貨物の本邦への輸出のための販売に関わる通常の利潤及び一般経費 + 当該輸入貨物の輸入港までの運賃等)    

(2)準備しておくべき資料

  • 製造原価の証憑書類(生産者の会計帳簿)
  • 加算した費用のエビデンス(請求書等)

 

[5] その他の方法

上述の計算方法によって課税価格を計算することができない場合に用います。これまでに述べた課税価格の決定方法を弾力的に応用するものですが、実は、実務上ではよく利用しています。

関税定率法基本通達には、以下のような方法が掲げられています。

(1)法第4条に規定する方法を弾力的に適用して課税価格を計算する方法

(2)法第4条の2(同種・類似)に規定する方法を弾力的に適用して課税価格を計算する方法

(3)法第4条の3第1項(国内販売価格)に規定する方法を弾力的に適用して課税価格を計算する方法

(4)その他弾力的決定方法  

以上

 

 

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